日本の高齢化社会において,高齢者の生活の質を極めて阻害する変形性関節症の主たる発生原因は関節軟骨の変性および摩耗である.関節軟骨は組成の大部分を水分が占めており,粘弾性特性を有している.また,関節軟骨の働きとして,関節に加わる衝撃を緩和する役割を持つと言われている.そのため,ひずみ速度に伴う力学的特性の変化を同定する必要性があるが,関節軟骨などの生体組織の動的な力学的特性を評価する手法は確立されていない. 研究目的は,関節軟骨などの生体組織を対象とした動的な力学的特性の評価手法を確立することである.本研究ではホプキンソン棒法(Split-Hopkinson pressure bar : SHPB)を用いた動的試験について,一次元波動伝ぱ理論に基づいた衝撃応答解析および実験的解析手法の確立を行い,関節軟骨の力学的特性を評価した. 初年次の研究では、機械的インピーダンスの低い関節軟骨に対して高精度の応力―ひずみ関係が測定可能なホプキンソン棒衝撃圧縮試験法(SHPB法)を開発した。2年目はこのSHPB法により、ウシ関節軟骨を対象とした実験を行って、正常軟骨と変性軟骨(酵素処理によるOA模擬軟骨)の動特性の差異について調べ、変性軟骨では正常軟骨に比較して弾性率が顕著に低下することを明らかにした。3年目(最終年度)は、準静的圧縮試験を追加実施して広範囲のひずみ速度における正常および変性軟骨の弾性率を測定、両者のひずみ速度依存性を明らかにするとともに染色法によって調べた軟骨のコラーゲン繊維組織構造変化と関係づけている。そして、変性軟骨では骨格機能を担うコラーゲン繊維組織のネットワーク構造の破綻が弾性率の低下を招くとの結論を得ている。
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