研究実績の概要 |
本年度は、主に福岡県久留米市の終助詞に関する包括的な記述を行い、その際に必要となる記述の枠組みについて考察を行った。順に、(i) 久留米市方言の終助詞ヤンに関する記述的研究、(ii) 久留米市方言の終助詞タイ/バイに関する用法整理について述べる。 (i) 久留米市方言のヤンは共通語に言い換えを行った際に主にジャン/ヨに置換されることから、それぞれの共通語の文末詞に関する先行研究の用法分類に当てはめることでヤンの意味範囲の画定を試みた結果、ヤンは、田野村 (1988) による共通語デハナイカの用法のうちデハナイカI類に相当する用法と、共通語ヨに対応する「矛盾考慮の命令」「矛盾考慮の依頼」「反語」「勧誘」「認識形成の要請」の用法を持ち、相互承接可能性からヤン1/ヤン2に分けて分析することが妥当であることがわかった。以上内容を日本方言研究会(2018年10月13日、岐阜大学)で口頭発表した。 (ii)本研究はタイ・バイの諸用法の記述を試みるとともに、それぞれの意味的な異なりの記述を試みた。発話行為論 (Searle 1979) を下敷きに用法の分類を行った結果、まずタイは主に平叙文に接続し、commissive, declarative, expressive, assertive の行為に対応する用法としてそれぞれ「意志」「許可」「把握」「推測、当然、前提」が与えられることがわかった。またそれぞれの用法において、タイとトタイ (トは準体助詞ノの方言形) で異なる意味で使い分けられていることもわかった。次にバイも主に平叙文に接続し、directive, expressive, assertive の行為に対応する用法として「行動の促し」「把握」「情報の提示」が挙げられることがわかった。以上内容を西南言語対照研究会 (2019年3月8日、西南学院大学)において口頭発表を行った。
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