研究課題/領域番号 |
18J22288
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
糸井川 壮大 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 霊長類 / キツネザル / 味覚受容体 / 苦味 / マダガスカル |
研究実績の概要 |
本研究では、分子と行動の手法を組み合わせて「ジェントルキツネザルのタケ食適応過程における味覚受容体の進化機構の解明」を目的とするものである。具体的には、(1)味覚受容体遺伝子の配列の多様性解析、(2)細胞を用いた受容体の機能解析、(3)生態調査と行動研究を主要なアプローチとしている。本年度は、マダガスカルでの遺伝試料及び植物試料の追加採集に加えて、(1)の配列解析と(2)の受容体の機能解析を中心に実施した。詳細は以下の通りである。 【キツネザル下目4科の苦味受容体TAS2R16の配列決定と機能解析】 初年度に採材した糞中DNAから配列決定した苦味受容体TAS2R16に着目して配列解析と機能解析を実施した。数種類の天然苦味物質に対するTAS2R16の感受性を検討したところ、科ごとに反応特性が異なっており、食性との相関を示唆する結果を得ることができた。 【ジェントルキツネザルTAS2R16の機能解析】 初年度末に解析を始めたヒロバナジェントルキツネザルに加えて、ハイイロジェントルキツネザルについても数種の天然苦味物質を用いてTAS2R16の機能解析を実施した。2種のTAS2R16は類似の反応特性であったが、近縁の果実食キツネザルとは異なる反応特性を示し、タケ食に適した形質を獲得していることが示唆された。そこで、ジェントルキツネザル固有の反応特性を生み出すアミノ酸残基の変異を近縁種との配列比較と部位特異的変異体解析を用いて探索し、いくつかの候補残基を同定した。また、ジェントルキツネザルの共通祖先のTAS2R16配列を推定し、機能解析することで、進化の過程で受容体機能がどのように変化してきたのか推定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、初年度に採集したキツネザルの遺伝試料を用いて苦味受容体の機能解析を実施した。ジェントルキツネザルについて食性と最も関連が深いと予測される苦味受容体TAS2R16について機能解析を実施し、種固有の機能特性を説明しうるアミノ酸残基の同定まで進められている。また、キツネザル下目4科についても並行して機能解析を進められており、ジェントルキツネザルに留まらない広範な知見を得られており、期待以上に進展した。一方で、タケからの呈味物質の抽出については、マダガスカルの輸出手続きシステムの再編の影響で予定通りサンプルを輸出できず、実施に至らなかった。このように項目ごとに進度に差はあるが総合的には、概ね順調に成果を挙げられている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、本年度解析したジェントルキツネザル2種に加えて、ジェントルキツネザル主要3系統のうち最後の系統の種を解析し、これまでの成果をまとめて原著論文として発表することを目標とする。また、その他のキツネザル種も含めて苦味受容体・甘味受容体の進化・機能解析を継続し、特に苦味受容体TAS2R16についてキツネザル全体での進化の様相を明らかすることを目指す。
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