本年度は、2020 年はじめに開始したケント州立大学とアリゾナ大学(米国)との共同研究として実施したジェントルキツネザル主要3系統の最後の一種(キンイロジェントルキツネザル)の苦味受容体TAS2R16の機能解析とこれまでの研究成果をまとめた論文執筆を中心に行った。 キンイロジェントルキツネザルの解析とこれまでに実施した2種のジェントルキツネザルの解析の結果、ジェントルキツネザルの苦味受容体TAS2R16は総じて、近縁の果実中心食のキツネザルよりも苦味物質感受性が低いことが明らかとなった。この機能低下が、有毒で苦味を呈するマダガスカルの竹を常食するのに有利に働いたと考えられる。また、3種それぞれの受容体の変異体解析を行ったところ、現生種の苦味受容体の機能低下は種固有のアミノ酸変異によって起こっていることがわかったため、ジェントルキツネザルの苦味感受性の低下は、それぞれの系統で平行的に起こったことが示唆された。また、これらの種固有の変異は、受容体の苦味物質結合部位には位置せず、結合に直接影響せず間接的に受容体機能を抑制していることが、ヘブライ大学との共同研究で明らかとなった。苦味感覚の平行的減弱は、有毒な竹への適応が複数回起こった可能性を提示したが、本研究だけで結論付けることは難しいため、解毒に関わる遺伝子などの進化と併せて今後検討していく必要がある。 これらの成果をまとめた論文は、2021年3月に英国王立協会のProceedings of the Royal Society B誌に受理され、4月に出版された。
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