研究課題/領域番号 |
18J22297
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
森 達哉 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 有機トランジスタ / ヘテロアセン / 分子間相互作用 / 溶液プロセス |
研究実績の概要 |
初年度は、すでに有機トランジスタ分子としての有用性を報告しているU字型有機半導体骨格を活用して、セレン原子をパイ骨格中に有する新規U字型ヘテロアセンの合成を行った。高周期元素特有の強固な相互作用や特異な電子物性を付与することで、電荷輸送特性を向上させることを狙った。目的分子の合成に成功し、その過程でヘテロ元素を収率良くアセン骨格に組み込むことのできる合成ルートを確立することができた。 開発した分子において単結晶の作製およびX線構造解析を行った。隣接分子間でカルコゲン原子間の距離がファンデルワールス半径和より近接していることから、導入したセレン原子を介した強固な分子間相互作用が発現していることが明らかになった。さらに、有機トランジスタ分子としては特異的なパッキング構造を形成していることが明らかになった。得られた単結晶構造に基づき、量子化学計算により電子機能性に関する知見を深めた。隣接分子間の電子的カップリングを見積もったところ、結晶中において効率的に電荷が輸送されることを支持する結果が得られた。 また、U字型分子構造に基づく大きな分子内ダイポールに由来して、開発した分子は従来の有機トランジスタ分子と比較して優れた有機溶媒への溶解性を示すことが分かった。これらの分子は簡便な溶液プロセスによって薄膜を作製できることから、溶解性と成膜性を兼ね備えた実用性のの観点からも非常に有用な分子群であることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に計画していた目的分子の合成に成功し、物性評価はおおむね完了している。蒸気拡散法により良質な単結晶を作製し、X線構造解析を行ったところ、セレン原子を介した分子間相互作用が発現しており、高周期元素置換により自己組織化能へ変化を及ぼすというコンセプトを実証する結果が得られた。さらに特異な分子パッキング構造は、量子化学計算の結果から電荷輸送に適していることが示唆されている。複雑な装置や手順を必要としない溶液プロセスにより薄膜を簡便に作製でき、優れた溶解性と成膜性を兼ね備えた有用な有機半導体分子を研究計画通り順調に開発できている。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に開発したU字型分子について、溶液プロセスによる薄膜トランジスタの作製および特性評価を行う。最適条件により作製された薄膜について、X線回折測定や原子間力顕微鏡観察を行い分子配列について明らかにする。単結晶構造解析の結果と併せて電荷輸送特性を詳細に議論する。次に、アーチ形ヘテロアセン骨格二つを連結させた構造に相当する大環状分子の合成を行う。初年度に開発したU字型分子のうち、最も優れた電荷輸送特性を示した分子のヘテロアセン骨格を用いる計画である。環状化合物の合成は一般に収率が低い傾向があるため、環形成反応における条件を精査することで環状分子の効率的な合成法の確立を副次的目標とする。初年度と同様に溶液プロセスによる有機トランジスタ作製および特性評価を行い、U字型との分子形状の違いが集合体の物理化学的特性や電荷輸送特性に及ぼす影響を明らかにする。
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