研究課題
(1)軟X線角度分解光電子分光(ARPES)を用いたトポロジカル物質の電子状態の観測トポロジカル絶縁体は、バルクは絶縁体だが、その表面にDirac表面状態が存在する。このDirac電子は、運動量空間にDirac coneが存在していることに起因しており、その他にも、グラフェンやFe系超伝導体でもDirac coneが観測されており、Dirac coneが特殊な物性を発現させている可能性が示唆されている。最近、RAgSb2(R=Ce, La)にて興味深い輸送、および磁化特性が観測され、Dirac coneの存在が示唆されている。そこでRAgSb2(R=Ce, La)に着目し、軟X線放射光を用いてARPESを行い、Dirac電子の存在を明らかにすることを試みた。その結果、RAgSb2(R=Ce, La)の電子状態を観測した。特にCeAgSb2では物性に大きな関わりがあるフェルミ準位がDirac点を横切っていることを初めて明らかにした。(2)レーザー光を用いたスピン分解ARPES装置の開発現在、スピン検出器とレーザーを組み合わせることで、レーザーの特性を最大限利用したスピン分解ARPES装置の開発を進めている。平成30年度はまず、ARPESが行えるよう光電子分析器のパラメータを調整し、その結果、バンド分散を観測できるようになった。(3)トポロジカル絶縁体における表面光起電力(SPV)シフト増大の研究最近、トポロジカル絶縁体に光照射することで生じるSPV効果を利用し、スピン偏極した電流を取り出すという提案がなされている。この効果は、バンドベンディングが光照射によって緩和することで起こる。このバンドベンディングを増大させることで、SPV効果を大きく出来る可能性があり、次世代デバイスを開発する上で重要である。そこで時間分解ARPESを用いてSPVの観測を行った。その結果、高強度赤外線をトポロジカル絶縁体に照射することによってSPVによって発生する電圧を増大させる手法を発見した。さらにこの発見はApplied Physics Lettersに掲載済みである。
2: おおむね順調に進展している
広島大学放射光科学研究センター(HiSOR)には、超低速電子線回折(VLEED)を用いたスピン検出器が放射光ビームラインに設置されており、エネルギー可変性を持つ放射光源と組み合わせることで、優れた研究成果を出している。VLEEDスピン検出器は、従来型の広く普及しているMott検出器に比べて検出効率が100倍程度改善されており、世界最高性能の検出効率を誇っている。また、VLEEDスピン検出器を2つに配置することで、スピン偏極度の3次元成分全てを観測することも可能である。我々は、直角に配置したVLEED検出器2台と6 eV パルスレーザー光源を組み合わせることで、大強度、微小スポットサイズ、偏光可変性等のレーザーの特性を最大限利用したスピン分解光電子分光装置の開発を進めている。平成30年度はまず、角度分解光電子分光が行えるよう光電子分析器のレンズパラメータを調整し、その結果、バンド分散を観測できるようになった。さらに、スピン検出器に電子が入射されるように光電子の軌道を調整した。
現在、角度分解光電子分光が行えるよう光電子分析器のレンズパラメータを調整し、その結果、バンド分散の観測が可能である。しかしながら、スピン検出器付近の光電子の速度を減速するパラメータが未調整のため、2019年度はこのパラメータの調整を行い、早ければ2019年度後期からの稼働が可能である。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 5件)
Physical Review B
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