研究課題/領域番号 |
18J22335
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
河合 賢太郎 広島大学, 生物圏科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 広島湾 / クロダイ / 初期減耗 / 産卵生態 |
研究実績の概要 |
魚類の持続的な資源管理において、初期生活史の減耗実態を把握することは重要だが、魚卵期の減耗については、サンプル確保や種同定の困難さから自然界における知見が乏しい。本研究では、これらの障壁を克服している広島湾クロダイをモデル生物とし、魚卵期の減耗実態を解明することを目指した。また近年、広島湾クロダイの資源量は減少しているため、本種の資源管理に必要となる産卵生態に関する知見を収集した。 まず、魚卵の発生段階をDNA量から推定するため、DNA量と各発生段階との検量線の作成を試みた。平成30年度に得た17発生段階のクロダイ受精卵を使用して検量線を作成した結果、DNA量の増加幅は想定より小さく、各発生段階の卵のDNA量は個体によるばらつきが大きかった。よって、DNA量から魚卵の発生段階を推定することは困難であったため、クロダイ卵の発生段階は、予備プランである実体顕微鏡による観察によって特定した。 また、平成30年度に引き続き、本種の産卵時間調査を行った。令和元年度は、受精直後である1細胞期卵の出現の時間変化だけでなく、2細胞期から32細胞期の受精卵について、各発生段階の発生時間から受精時間の推定も行った。卵調査の結果、1細胞期卵は17-19時に多く出現し、受精時間の推定結果は18-20時に集中した。本種の産卵は日没前後に集中すると推測された。 令和元年度は、本種の産卵期における行動を把握するため、超音波バイオテレメトリ―手法を用いたマガキ養殖場における本種の行動調査を行った。発信器を装着した5個体のうち4個体の追跡に成功し、いずれも放流地点近くのカキ筏に留まったため、大規模な産卵回遊は行わないことが示唆された。そのうち2個体は、産卵時間と推定される日没前から21時頃にかけて、急浮上・下降行動を頻繁に繰り返した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度には、魚卵の発生段階をDNA量から推定するための、DNA量と各発生段階との検量線を作成することを予定しており、その作成に至った。各発生段階におけるDNA量増加が芳しくなかったこと、DNA量は魚卵の個体差が大きかったことから、DNA定量による発生段階の推定は困難であると結論付けられたが、予備プラン(実体顕微鏡による魚卵発生段階の観察)を利用することで、研究は計画通りに進展している。また、本種の産卵時間調査では平成30年度の調査方法を発展させ、受精時間の逆算まで行うことに成功したことで、自然界における本種の産卵時間が日没前後であることを明らかにした。さらに、本研究申請時に予定していた、超音波バイオテレメトリ―手法によるクロダイ成魚の産卵行動調査も成功させ、広島湾において本種は大規模な産卵回遊を行わないことを示唆する貴重な知見を得た。さらには、本種の産卵時間には、飼育下のクロダイの産卵行動として記録がある頻繁な急浮上・下降行動を検出し、想定以上の結果を得ることができた。このように、令和元年度は概ね申請時通りの成果が得られたため、本評価を与えた。次年度も計画に従い研究を遂行する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
現在のところ、研究計画は概ね申請時通りであり、次年度も計画に従い研究を遂行する予定である。 令和2年度は、広島湾でクロダイ卵を採集し、発生段階毎に分けたのち、各発生段階の卵密度を算出する。算出した卵密度と、平成30年度に明らかにした各発生段階の受精後経過時間から、広島湾クロダイにおける魚卵期の減耗曲線を作成し、受精からふ化までの間の減耗率を明らかにする。加えて、本種の着底稚魚を採集し密度を算出することで、受精から着底に至る浮遊期全体における減耗の実態解明に挑む。広島湾クロダイの産卵生態調査では、平成30年度から令和2年度までの3年間で採集したクロダイ卵密度と、魚卵の減耗曲線を用いることで、本種の1尾当たり1日産卵量を求め、Parker(1985)の卵数法に基づいて各年の産卵親魚数を推算する。また、令和元年度と同様に、超音波バイオテレメトリ―による本種の産卵行動調査を継続して行う。
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