研究実績の概要 |
海産魚の持続的な資源管理では、資源加入に関わる初期生活史の減耗実態の把握が重要だが、自然環境の魚卵期の減耗については、サンプル確保や種同定の困難さから知見が乏しい。本研究では、これらの障壁を克服している広島湾クロダイをモデル生物とし、魚卵期の減耗実態を解明するとともに、近年、漁獲量が減少している本種の産卵生態に関する知見を収集した。 クロダイ親魚の産卵行動を把握するため、超音波バイオテレメトリ―による行動調査を行った。メス3個体に超音波発信器を装着し、夜間に追跡型受信機で行動データを取得した。その結果、追跡したすべての個体の行動圏は放流地点から数百m2の範囲にとどまり、産卵時刻と考えられる日没前後に2m/s以上の急上昇行動が確認された。 クロダイ卵期の減耗率を明らかにするため、広島湾のクロダイの産卵場で卵採集調査を実施した。得られた卵は、ただちに実体顕微鏡下で発生ステージを観察したのち、抗クロダイ卵モノクローナル抗体による種判別に供した。令和元年度の水槽実験の結果から卵発生と受精後経過時間の関係を引用し、卵の発生ステージ別の密度分布から減耗曲線を作成することで、クロダイ卵期の減耗率を算出した。その結果、広島湾のクロダイは、受精からふ化までの約2日間で98%以上が減耗することが明らかになった。 広島湾のクロダイの産卵親魚量を推定するため、同湾で網羅的にクロダイ卵を採集した2016年、2017年の卵密度データを、上記の減耗曲線に当てはめて産卵密度を算出した。産卵密度から産卵親魚量を推定するとともに、広島湾のクロダイ漁獲量から漁獲利用率を算出した。その結果、広島湾のクロダイ産卵親魚量は2016年が8,729t、2017年が6,032tと推定され、同湾クロダイの資源量減少を支持した。一方で、漁獲利用率は両年とも1%前後と低く、漁業者による産卵親魚の乱獲は起こっていないと考えられた。
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