研究課題
本期間における研究成果は、真空遮断器において電流遮断時に生じるプラズマを発生することのできる大電流実験装置の構築、及び真空の絶縁が破壊されるプロセスのシミュレーションに分けられる。大電流実験装置の構築に関しては、系統事故を模擬する交流半波を投入する回路を構築し、小電流アーク伸展法に基づき直流と交流の合成波形を投入できるシステムを構築した。また、バックアップ遮断器及び電圧源を組み込むことで、大電流と高電圧の合成試験を行うことができる回路とした。このシステムは、大電流及び高電圧を扱うため、絶対的な安全性と、実験内容の変更を見越した拡張性の両方を確保することを意識し、各電力機器メーカーや各大学の実験システムを参考にさせていただいた。具体的な測定については更に準備を進めている。また、シミュレーションにおいては、カソード上の極狭い領域から放出される電子及び中性粒子の密度が一定の条件を満たすと、プラズマが成長し、カソード表面の電界が強調され、電界電子放出が促進されるということが知られている。この詳細な条件を解明するため、粒子法のひとつであるParticle-In-Cell法を用いて、中性粒子と荷電粒子の拡散の様相をシミュレートした。その結果、プラズマが成長し、カソード表面の電界が強調され、更にプラズマが成長するという正のフィードバックがかかるためには、電極材料として想定した銅のイオン化断面積のエネルギーの下限値に相当する電位になる地点での中性粒子密度が一定値以上であるという定量的な条件を見出すことができた。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、絶縁破壊現象の解明、アーク放電現象の解明、そして実機との比較検証という三本の柱で研究を進める。このうち、絶縁破壊現象の解明においては、修士課程において行っていた微小粒子をギャップ中に意図的に注入する実験の成果を国際学会にて発表し、学会誌論文へも投稿済みである。また、Particle-In-Cellシミュレーションを用いて絶縁破壊の開始条件や様相を解明する取り組みも、定量的な条件を明らかにできつつあり、順調に進んでいると考えられる。更に、綿密なパラメータスイープを行うためにスーパーコンピューティングシステムをトライアルユースしており、自動でパラメータスイープを行い各ノードに分散計算させるようにプログラムを組めている。アーク放電現象の解明については、シミュレートする対象であるアーク放電を実験上で発生させることのできる大電流試験装置を構築することができ、今後順調に試験を行うことができると期待している。測定内容についても準備を進めており、光学的な測定を組み合わせて電極温度やプラズマ密度、中性粒子密度などを測定できるようになる見込みである。更に、実機との比較検証においては、様々な共同研究先との打ち合わせ及び共同実験を通じ、申請者の研究において不足している部分を他の研究所において測定してもらう、またノウハウを共有して日本の真空遮断技術を高めるという取り組みを継続して行っている。以上のような状況から、研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
今後は作成した電流源装置を使用して、真空チャンバー内に配置した電極間にアーク放電を発生させ、そのアーク放電の物理特性を測定する実験を展開していく予定である。具体的には、アーク放電期間中の中性粒子密度、電子密度、イオン密度をレーザー波面の変化を測定することを利用したシャックハルトマンセンサを用いて測定するとともに、中性粒子の温度分布を四分岐光学系を用いた光学測定技術を用いて測定する。更に、電流源装置に半導体転流機構を増設することで、電流の通電経路を瞬時に切り替え、試験ギャップに流れる電流を瞬時にゼロとする回路を加える。これにより、現在まで詳細に検討のされていないアーク放電で生じるプラズマの減衰過程及びその時定数、またそれらの電極温度依存性を測定することで、真空遮断技術の向上に大いに貢献できると考えている。また、シミュレーションでも、パラメータ走査の間隔を密にし、データ処理を最適に行うことで、より詳細なプラズマ成長の必要条件を見出すことを目標とする。このためには通常のコンピュータでは能力が不足しており、スーパーコンピュータを用いた多コア並列計算を行うことで計算を現実的な時間で完了可能とする必要がある。パラメータを密に振ったシミュレーションを行うと、出力ファイルの数が膨大になり、現実的に取り扱うことが困難となってしまう。この問題を解決することが本年度の研究の第一歩であると考えられる。対策としては、ファイルをアーカイブし、データ抽出時にはメモリ上に直接展開することで、取り扱うファイル数を抑えることができると考えている。
国際学会誌論文に2件投稿済みであり、査読中である。
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