研究課題/領域番号 |
18J22415
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
江尻 開 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 真空遮断器 / プラズマ / 回路保護 / アーク放電 |
研究実績の概要 |
本期間における研究成果は、真空遮断器において電流遮断時に生じるプラズマ中の中性粒子の励起温度とスペクトルの測定、及び衝突輻射モデルに基づく励起準位間遷移のシミュレーションとの比較検討に基づくプラズマパラメータ全体の推定である。真空遮断器は導入の動きが急速に拡がる直流電力網の保護に適応されること、また環境調和性が良いことから交流電力網においてもより広い階級において使用されることが期待されており、基礎的なパラメータを把握し設計に活かすことが重要である。まず、プラズマパラメータのうち取得が比較的容易な中性粒子温度を、高い時間分解能と空間分解能を持つ多結像光学系を使用して測定した。直流遮断波形を模擬した波形下において、電流変化率の小さな大電流区間における励起温度には電極材料による依存性があること、大きな電流変化率となる遮断区間においては励起温度の変化傾向が電極材料により大きく異なることが判明した。分光測定では空間と時間の分解能は劣るものの高い精度で測定を行うことができ、多結像光学系による測定の精度を確認した。次に、多結像光学系による測定と分光測定の結果から他の重要なプラズマパラメータを推定するために、衝突輻射モデルに基づく励起準位間遷移シミュレーションを行った。その結果、電極材料による励起温度の変化は、電子温度と電子密度の差異に起因していること、更にその背景には中性粒子やイオンの密度、更には電極の温度が密接に関係していることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、絶縁破壊現象の解明、アーク放電現象の解明、そして実機との比較検証という三本の柱で研究を進める。このうち、絶縁破壊現象の解明においては、修士課程において行っていた微小粒子をギャップ中に意図的に注入する実験の成果は国際学会にて発表済、学会誌論文へも掲載済である。また、Particle-In-Cellシミュレーションを用いて絶縁破壊の開始条件や様相を解明する取り組みも、学会誌論文へ掲載決定となった。アーク放電現象の解明については、様々な大学や企業からの協力を仰ぎながら実験と計算の両面から基礎的なプラズマパラメータを明らかにしつつあり、一部を国内研究会において発表済であるほか、複数の学会誌論文を投稿予定である。来期は更に電流ゼロ点後に電圧を印加する実験に向けた準備を進めており、重要な知見が得られると期待している。実機との比較検証においても、共同研究を行う企業の設備で共同実験を行い、大学で発生可能なものをはるかに超えた強いモードの真空アークについての実験も行っている。以上のような状況から、研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は作成した電流源装置を改良し、アーク放電が消弧した後の絶縁回復特性を測定する実験を展開していく予定である。電力系統を保護する遮断器は、電流と電圧の複合的な作用を完全に制御することで初めて所望の働きをする機器である。そのため、電流のみもしくは電圧のみという国内外の大学で広く行われている実験方式だけではなく、電流と電圧の両方を使用して、発生する現象と遮断器の性能を評価することが必要不可欠である。本研究では、真空チャンバー内に配置した電極間にアーク放電を発生させ、そのアーク放電の物理特性を測定しつつ、電流と電圧を精度良く制御して複合的に印加する実験を展開していく予定である。これにより、真空遮断器の性能を決定づける遮断成否という情報を、アーク放電期間中のプラズマパラメータと紐付けて明らかにし、より付加価値の高い真空遮断器の実現に向けた一助となることを目指す。更に、真空遮断器を直流遮断器へと適応することを見越し、交流の電流だけでなく、急峻な電流変化となる直流遮断を模擬した電流波形を投入する。電極温度の測定を合わせて行うことで、直流遮断の成否に作用するプラズマパラメータや電極温度を統合的に把握することができると期待する。
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