今年度における研究は、昨年までに報告した飽和脂肪酸修飾ゼラチンからなる血管新生材料の改良および、抗炎症性材料の開発に焦点を当てた。C12-ApGltnハイドロゲルは自己組織化により形成されたハイドロゲルであるために、マウス皮下における滞留性が低いという課題があった。そこで本年度では、C12-ApGltnを熱架橋マイクロ粒子化およびファイバーシート化することにより、生体内安定性を高めた。血管新生マイクロ粒子については、C12-ApGltnをコアセルベーションによりマイクロ粒子化(C12-MP)した後に熱架橋を行うことで、酵素分解に対する耐性を向上させる施策を行った。C12-MPを水和したC12-MPハイドロゲルは、熱架橋時間を調節することにより、マウス皮下において埋入後2~22日後まで血管新生を誘導する期間を調節することが可能であった。さらに、ヘキサデシル基(C16)を修飾したApGltn(C16-ApGltn)からなるマイクロファイバーシート(C16-FS)は、C16-FSは成長因子を用いることなくマウス皮下において局所的な成長因子産生および血管新生を誘導していた。 一方、抗炎症性を示す不飽和脂肪酸の一種であるα-リノレン酸(ALA)をApGltnに修飾したALA-ApGltnを合成し、組織接着性と抗炎症性を併せ持つ創傷被覆材の設計を行った。ALA-ApGltnとポリエチレングリコール系架橋剤からなるハイドロゲル(ALA-gel)は、ブタ大動脈組織に対する接着性が向上していた。さらに、活性化させた炎症細胞をALA-gel上で培養すると、細胞からの炎症性サイトカインの産生量が著しく低下していた。 以上のことから、飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸を修飾したバイオマテリアルにより、血管新生作用および抗炎症作用の調節が可能であった。
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