研究課題/領域番号 |
18J22455
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
大谷 祐紀 北海道大学, 大学院獣医学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 自己免疫 / 生殖 / モデルマウス / 性ホルモン / 組織解析 / 腎病理 / 糸球体腎炎 |
研究実績の概要 |
哺乳類の自己免疫と生殖システムは密接に関連し、一方の破綻は他方の機能破綻をもたらすが、その病態形成メカニズムには不明な点が多い。本年度は、雄の自己免疫疾患モデルマウスに精巣摘出を施し、後の病態形成に与える影響を組織学的に解析した。 疾患モデルとして、Y染色体上の遺伝子変異により、脾腫や糸球体腎炎を主徴とする全身性自己免疫疾患を示す雄BXSB/Yaaを用いた。対照として遺伝子変異をもたないBXSBを用いた。3週齢の両系統に全身麻酔下での精巣摘出または擬手術を施し、3および6ヶ月齢で各臓器を採材、解析した。 全ての精巣摘出群で、血中テストステロン値が擬手術群よりも低値だった。脾臓重量について、BXSBは処置間で差がない一方、BXSB/Yaa精巣摘出群は3ヶ月齢で擬手術群のものより高値の傾向を示し、6ヶ月齢でその差は消失した。 両月齢のBXSB腎病理像に処置間での一定の差はなかった。BXSB/Yaaは、3ヶ月齢で糸球体腎炎像を示したが、処置間で有意な差はなかった。6ヶ月齢において、一部の擬手術群個体は全節性糸球体硬化像を示したが、精巣摘出群ではいずれの個体も示さなかった。マッソントリクローム染色を用いた定量において、精巣摘出群の糸球体硬化度は擬手術群よりも有意に低値であった。また、擬手術群で有意に高頻度にPAS陽性の尿円柱が皮質と髄質に認められた。糸球体内核数および炎症細胞数について、処置間での差はなかった。糸球体足細胞機能マーカーNphs1、Nphs2、Synpo mRNA発現量について、6ヶ月齢BXSB/Yaa擬手術群は精巣摘出群よりも低値の傾向を示し、Nphs2は有意に低値であった。 以上、精巣を摘出したBXSB/Yaaは、初期に脾臓病変を悪化させ、後期では糸球体病変形成が抑制された。BXSB/Yaaの病態形成には性ホルモンが全身的および臓器特異的に関与することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、精巣摘出モデルの解析により、性ホルモンが自己免疫疾患モデルの病態形成に与える影響を考察した。継続的な影響を検討するため、3および6ヶ月齢での採材を行った。また、腎病態の把握のため、その期間、採尿を行っている。採材した組織の評価はおおむね完了している。特に加齢群の糸球体病態における、精巣摘出による糸球体硬化病変の変化を得られたことは意義深い。 また、前年度の続きとして、BXSB/Yaa精巣の表現型解析を行った。加齢群での解析を行い、結果をまとめ、Cell and Tissue Research誌に公表した。
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今後の研究の推進方策 |
これまで得られた糸球体の組織学的病変について、機能的な指標として、血液、尿を中心に解析を行い、相関解析によりその関連性を評価する。特に血中尿素窒素値、クレアチニン値、また、尿中アルブミン量、アルブミン/クレアチニン値について計測を行う。アンドロゲンの腎病態悪化作用はこれまで報告されているが、そのメカニズムには不明な点が残っている。その機序を明らかにするため、腎臓内アンドロゲンレセプターの局在およびタンパク量を、それぞれ免疫組織化学染色法およびウエスタンブロッティングにより明らかにする。糸球体包外壁上皮細胞はアンドロゲンの影響を受けることが報告されており、また、糸球体硬化病態に関与する細胞であることから、精巣摘出により実働的に病変を形成していく候補因子として解析を進める。 前年度の続きとして、BXSB/Yaa精巣表現型形成候補分子の解析を進める。候補分子としてToll-like receptor (Tlr)7を報告したが、次年度はTlr7ノックアウトマウスの精巣について解析を行う。具体的には、Tlr7ノックアウトマウスの精巣について、その重量、局所炎症の有無を野生型と比較する。また、組織学的解析として、血液精巣関門構成分子群、精細管構成細胞の数および比率、アポトーシス細胞数を精上皮ステージに分けて解析する。得られた表現型から、自己免疫と生殖システムを繋ぐ分子として、Tlr7の役割を考察する。
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