研究課題/領域番号 |
18J22468
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
川嶋 なつみ 香川大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 赤外分光法 / 超音波 / 非侵襲血糖値センサー / フーリエ分光法 / ヘルスケアセンサー / パラメトリック効果 |
研究実績の概要 |
非侵襲血糖値センサーの実現を目指し、皮膚表層近傍の血管を計測のターゲットとする。この場合、成分同定能力が高いことで知られていると同時に、水分による吸収が顕著な中赤外光を生体計測へ適用するには、中赤外分光イメージング技術と超音波アシスト法を組み合わせた成分定量計測を行う必要がある。血糖値であるグルコース濃度は、単位長さあたりの吸光度である吸収係数により高精度に計測することが可能になる。そこで、生体内部に超音波定在波を発生させて皮膚表層近傍に反射面を能動的に創生することが可能な超音波アシスト法によって、周波数を変化させることにより計測深さを任意に変化させることが可能となる。この超音波アシスト法に関しては同研究室の山本が学術論文にて報告している。博士後期課程1年目は生体模擬試料による固体(軟質物)への超音波アシスト法の適用及びその評価実験と、マウスを用いた動物実験における非侵襲血糖値計測によって血中グルコースの吸収スペクトルの取得を行った。軟質物内を伝搬する超音波に非線形効果(パラメトリック効果)が生じることによって、高次高次高調波が生じピッチの狭い超音波定在波が創生されることを発見した。この研究成果は同研究室の北崎が学術論文にて報告した。また、結像型2次元中赤外フーリエ分光イメージング装置と超音波アシスト法によって、マウス(計測部位:耳)の血中グルコース計測を行った結果、100 mg/dl程度の血糖値の吸収スペクトルを取得することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
生体模擬試料内部は通常屈折率が一様で、入射した光はそのまま透過する。しかし、試料内部に超音波を加振し超音波定在波を生成することで、疎密波により試料内部に密度差が生じ、屈折率差が生じる。この屈折率差は超音波定在波の節の部分で高くなり光を反射する。この超音波定在波の節はOptical Coherence Tomographyによって可視化できる。生体模擬試料の下部から超音波振動子により加振し(周波数1 MHz、印加電圧5 Vrms)、上部からOCTにより生体模擬試料内部の画像を取得した結果、周波数1 MHzの超音波を加振した際の超音波定在波の節のピッチの理論値は0.375 mmであることに対し、実際に観察された超音波定在波のピッチは0.15 mmであった。これは、音波が進行するにつれ歪んでいく非線形効果(パラメトリック効果)が入射音波に生じることによって、高次高調波が生じピッチの狭い超音波定在波を創生したためだと考えられる。パラメトリック効果とは物質に音波が入射した際、音圧が高い部分で密度が高くなり音速が速くなることで波形歪みを生じる非線形効果のことである。正弦波を軟質物に入射させた際、波形が進むにつれてのこぎり刃状に歪んでいき高調波と直流成分が発生する。実験の結果、パラメトリック定在波により3倍音の節の位置に反射面が生成されたと推定している。 結像型2次元中赤外フーリエ分光イメージング装置と超音波アシスト法によって、マウス(計測部位:耳)の血中グルコース計測を行った。受光器に赤外線カメラと、光源にカンタルIR光源を使用した。マウスの腹腔に砂糖水を注射することで、経過時間ごとの血糖値の推移をモニタリングするべく分光計測を行った。100 mg/dl程度の血糖値に対してグルコースの吸収ピーク(波長9.25 、9.65 、10.1 mg/dl)を取得することができた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、皮膚内部からの微弱拡散反射光の高感度検出が可能な小型分光器の実現を目指す。微弱拡散反射光の高感度検出に際した対物レンズの開口数を、小型ユニット(1辺:30 mm程度)を試作して疑似生体膜(寒天)により明確にする。また、干渉鮮明度の向上を目的とした光軸組立精度なども明確にする。 現在、対物レンズ開口数 0.2、超音波印加電圧10 Vにより、寒天の内部反射光からグルコース濃度(約100 mg/dl)を中赤外吸光度から検出することに成功している。しかし、再現性が低く十数倍の高感度化が必要であるため、お椀型の対物レンズを試料に接触させることにより開口数を5倍にする。感度が開口数の2乗で向上することから25倍の感度向上が期待できる。透過型平凸レンズ、反射型パラボラレンズの2種類の対物レンズにより小型ユニットを試作する予定である。超音波を 裏面から照射できる耳たぶが測定部位として適正であると考えている。そのため、耳たぶに装着できる超小型(1辺:15 mm程度)の超音波アシスト中赤外分光イメージング装置を段階的に実現する。組立誤差の結像面への光学的な悪影響はテコの原理により決定するため、小型化することにより光軸長が短くなれば干渉鮮明度の向上が期待できる。また、医学部施設内部でのラットを用いた事前評価では、分光に必要となる波長帯(9から10マイクロメートル近傍)を選択的に照射すれば熱ダメージを与えず高感度に計測できる可能性を見出しているため、メタマテリアルやバンドパスフィルターによる波長が選択で高輝度の中赤外光源の試作評価も行う予定である。
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