研究課題/領域番号 |
18J22495
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
楠亀 裕哉 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | AdS/CFT対応 / 共形場理論 / 共形ブートストラップ / ブラックホール / 量子エンタングルメント / 量子カオス |
研究実績の概要 |
本研究は共形ブートストラップを用いる事で、AdS重力に双対な共形場理論の性質を理解しようという試みである。共形ブートストラップとは、「共形ブロック」と呼ばれる量を基底として相関関数を展開した時の係数(=結合定数)についての方程式であるが、実はこの共形ブロックの性質は良く分かっていなかった。そのため、本研究の第一ステップはこの共形ブロックの性質を明らかにすることであった。前年度はこの「共形ブロック」の性質を数値的及び解析的に調べ、その結果を論文として発表した。
共形ブロックは非常に複雑な無限和として定義され、定義から原理的に計算していくのはほぼ不可能と言って良い。しかし、実はこの共形ブロックはZamolodchikov漸化式と呼ばれる独立な方法で計算が可能な事が知られている。この事実に着目し、数値計算を用いて共形ブロックの定性的振る舞いを調べた結果、ブラックホールへの相転移現象と関係する転移現象を発見した。更にこの物理的なヒントをもとにして解析的定式化を試みた結果、共形ブロックの一種の積分変換であるfusion変換の核関数(fusion matrix)の極構造が本質的に重要である事に気付き、この発見に基づいて同年度のうちに「共形ブロックをfusion matrixを用いて解析する」手法を編み出した。また以上の結果を共形ブートストラップに応用することによって、本研究の主目的である「AdS重力理論に双対となる共形場理論の普遍的性質の一つ」として、「非常に大きなspinを持つ二体粒子のスペクトラムはLiouville CFTのスペクトラムと酷似している」事を示した。 なお、この研究で発見した共形ブロックの性質は共形ブートストラップに限らず多くの方向への応用が可能であり、その一つとして「重力双対を持つ共形場理論におけるエンタングルメントエントロピーの普遍的性質」を導く事にも成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の主な目的は「AdS重力理論に双対な共形場理論の普遍的性質の研究」である。その具体的なアプローチとして「共形ブートストラップ」に焦点を充てていたが、本研究開始時点では共形ブートストラップを解くための情報(=共形ブロックの性質)がいくつも欠けていた状況であった。そのため、最初のステップとして数値計算によって情報を寄せ集める所から始めたが、数値計算の過程でブラックホールへの転移と関係ある興味深い転移現象を発見し、この物理的ヒントに基づいて解析的な定式化にまでたどり着いた。また、こうして得られた情報を用いる事で共形ブートストラップを解くことが出来るようになり、主目的の「AdS重力理論に双対となる共形場理論の普遍的性質の一つ」として、「非常に大きなspinを持つ二体粒子のスペクトラムはLiouville CFTのスペクトラムと酷似している」事を示すことに成功した。 ツールの模索から始まった本研究であったが、こうして同年度のうちに主目的に直接アプローチ可能な所まで達成した点から、研究目標に対して十分に進展があったと言える。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に「非常に大きなspinを持つ二体粒子のスペクトラムはLiouville CFTのスペクトラムと酷似している」ことを示したが、この結果をきちんと重力側で再現する事が目下重要な課題である。 また、AdS/CFT対応の解明のヒントの一つとして、「共形場理論上で定義された共形ブロックがAdS重力理論上の測地線に対応する」という事実が知られている。一方、前年度の研究によって共形ブロックはブラックホールについての情報を持ち、その情報はfusion変換の核関数(fusion matrix)に記録されていることを明らかにした。以上の事実から、fusion matrixを通してAdS/CFT対応を眺めることで、「共形ブロックと測地線の対応」からより一歩踏み込んだ理解が可能だと期待されるため、この理解を進めていきたい。 また、前年度の研究では、共形ブロックとfusion matrixの関係の発見の応用として共形ブートストラップを解く事を行ったが、実際には光円錐極限に限ったものとなっている。そのため、今後はより一般的に共形ブートストラップを解く事を行っていきたい。また、他の応用としてエンタングルメントのダイナミクスを調べる際にも有用であり、実際に前年度に「重力双対を持つ共形場理論におけるエンタングルメントエントロピーの普遍的性質」を明らかにすることに成功している。今後はより興味深いセットアップにおいてエンタングルメントのダイナミクスを調べていくことで、重力双対を持つ共形場理論のダイナミクスを深く理解していきたい。
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