研究課題/領域番号 |
18J22537
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
笹谷 拓也 東京大学, 情報理工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 無線電力伝送 / ユビキタスコンピューティング / Internet of Things / 準静空洞共振器 / 負荷変調 / 省電力無線通信 |
研究実績の概要 |
広範囲に配置された多数の電子機器へのエネルギー供給が,利用者の意識することなく行われるようなユビキタスな無線電力伝送の実現に向けて,(1)広範囲に磁界を生成する共振器構造の検討・提案・解析,(2)単一モードを有する共振器構造の等価回路の定式化,(3)Internet of Things(IoT)への応用に向けた省電力通信と受信モジュールの開発の三点に取り組んだ. 上記(1)については,広い空間のあらゆる位置に磁界を発生出来る共振器構造の検討を行い,複数のモードを有する共振器構造を使用するアプローチの有効性を示した.具体的には (a)空間内の全ての位置へ高効率にエネルギーを送ることが可能であることおよび (b)空間の自由な利用を妨げないことの二点を実現する共振器構造を提案し,理論的な解析やスケールモデルの試作・実測を通じて空間内のあらゆる位置にある受電器に対して30%以上の効率で電力が伝送できることを明らかにした. また上記(2)に関して,面電流を用いた共振器構造の課題として,確立された等価回路の算出方法が存在しないことが挙げられる.そこで単一モードを有する共振器構造について,結合モード理論と鏡像電流を用いた幾何的な情報に基づく結合係数の定式化を行い,実測によりその有効性を確認した. 本研究をIoTデバイスへの給電に応用することを想定すると,IoTデバイス間の受信エネルギーの調整やデータのやり取りのための低消費電力な通信チャネルの構築が必要となる.そこで上記(3)に挙げたように,無線電力伝送用の共振器構造が生成する磁界をキャリアとした負荷変調通信の実証を行ない,数10 kbps程度のビットレートで通信が可能であることを示した.そして動的な信号レベルの調整,情報の送受信,電力の受信,電力管理回路,マイコン,などのIoTデバイスに必要なものが統合された受信モジュールを開発した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の根幹となる,複数の異なる磁界分布を示すモードを受信器の位置によって使い分けるというアプローチの有効性が示せたことや,それを実現する共振器構造を提案したことにより,目標であるユビキタスな無線電力伝送の実現に向けて大きく前進したといえる. また,理論解析や実験,システムレベルでの検討を通じ,受信ノード間での協調方法や通信チャネルの確保といった実システムに即した課題の抽出も順調に進んでおり,優先度の高い要素の一つである,無線電力伝送のチャネルを介した負荷変調通信を行う受信ノードの開発にも成功した. 次年度に行う実証実験の準備なども予定通り進行しており,総合的におむね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
今後は実際の部屋スケールのユビキタス無線電力伝送システムの実証実験を行う.実際の部屋スケールの無線電力伝送システムの実装を通じ,実際のIoTシステムへの応用や,安価なシステムの構成方法の確立を行う. また,複数のモードを有する共振器の等価回路の解析や,磁界の空間的な分布だけでなく向きも変えられる共振器構造の検討にも取り組む予定である.
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