本研究はfMRIを用いて、ヒトが質感をどのように記憶するのか、その視覚記憶メカニズムを解明することを目的とする。平成30年度は以下の2つの研究を実施した。 1つ目の研究では質感の視覚記憶に前頭前皮質が果たす役割について検討した。そのために質感の中で粗さと光沢感に着目した。実験は物体の粗さを記憶する課題と光沢感を記憶する課題で構成された。参加者は継時呈示される2つの物体のそれぞれの質感から、どちらの課題を実施しているのかを判断して記憶した。前頭前皮質の中で前頭極と背外側前頭前野(DLPFC)、そして腹外側前頭前野(VLPFC)を同定し、課題の保持期間中の脳活動に対してマルチボクセルパターン解析(MVPA)を適用した結果、DLPFCとVLPFCも質感の視覚記憶に関与することが明らかになった。さらにそれぞれの果たす役割について検討したところ、DLPFCは課題の保持、VLPFCは判断に特に関連することが示された。これらの研究結果は第82回日本心理学会や第48回Society for Neuroscienceなどで発表された。 2つ目の研究では粗さに着目し、その視覚記憶を担う神経基盤について検討した。参加者はSmoothな物体あるいはRoughな物体を記憶するように教示された。本研究では腹側高次視覚野と頭頂間溝を関心領域として設定し、これらの領域の保持期間中の脳活動に対してMVPAを行った。その結果、腹側高次視覚野の中で顔処理に関連する領域と頭頂間溝において記憶した粗さを予測することができた。したがって、これまでの研究によりこれらの領域で粗さと光沢感の区別といった質感のカテゴリ情報が保持されることが示されているが、本研究から新たに粗さの程度のような質感のクオリティ情報もこれらの領域で保持されることも明らかになった。
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