本研究の目的は、fMRIを用いてヒトの質感の視覚記憶メカニズムを解明することである。本年度はコロナ禍でfMRI実験を進めることはできなかったため、以下の解析と論文発表を行った。 視覚的干渉が粗さの視覚記憶に関わる神経基盤に及ぼす影響を検証した。実験は物体の粗さを記憶する課題であり、保持期間中に視覚的干渉を継時呈示した。行動データを確認したところ、視覚的干渉の有無によらず参加者は正確に粗さを記憶できていることが確認された。次に腹側高次視覚野と頭頂間溝の脳活動に対してマルチボクセルパターン解析(MVPA)を適用した結果、視覚的干渉が呈示された条件でのみ、腹側高次視覚野の寄与が確認された。ところが、視覚的干渉が呈示された条件における頭頂間溝、視覚的干渉なし条件における腹側高次視覚野および頭頂間溝の関与は見られなかった。このように行動データとMVPAデータの間に乖離が見られたが、この結果は本課題の複雑さに起因するものと考えられた。そこで全脳に対してMVPAを行い、データ駆動的に課題に関与する脳領域を探索するサーチライトMVPAを適用した。その結果、視覚的干渉なし条件では多感覚処理に関わる領域、視覚的干渉あり条件では腹側高次視覚野周辺にクラスタが形成された。この結果から、視覚的干渉がランダムに呈示されるような状況下では、視覚情報から喚起される触覚的な処理に重みづけることで質感の視覚情報を記憶している可能性が示唆された。 これまで行ってきた研究を論文として刊行した。照明変化に対して頑健な粗さの視覚記憶の神経基盤に関する論文をExperimental Brain Research、光沢感や粗さの視覚記憶に寄与する腹側高次視覚野と頭頂間溝の機能差に関する論文をNeuroReport、そして上述した視覚的干渉の影響に関する論文をNeuroscience Lettersでそれぞれ刊行した。
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