研究課題
本年度はクラスター代数上の離散力学系を記述する差分方程式の特徴づけおよびそれらの離散力学系に付随する不変量についての研究を行った。得られた結果は以下の通りである。(1) クラスター代数上のT-システムとして実現されうる差分方程式からある種のシンプレクティック性を満たす正方行列の二つ組(これをT-datumと名付けた)が得られることを示した。また、逆にT-datum を与えたとき、それに対応するT-システムが存在することも示した。したがって、どのような離散力学系がT-システムとして実現できるかという問題に対して完全な回答を与えた。さらに、T-datumを用いて箙およびそれを保つ変異の列を記述する明示式も与えた。シンプレクティック性は容易にチェックできる条件のため、クラスター代数上の自己同型を得る平易かつ系統的な手法を与えたことになる。(2) 周期的な T-システムに対応するT-datumは同時正値性という特別な性質を持つことを示した。この同時正値性という性質は行列の不等式で記述される容易にチェックができる性質であり、周期的なT-システムの候補を発見するのに非常に有用である。実際、この性質を用いて見つけた候補からいくつかの新しい周期的なT-システムを発見した。(3) カルタン的と呼ばれる広いクラスに属するT-datumであって、加えて付随する離散力学系が周期的なものに対して、ダイログ関数を用いた実数値の不変量を定義した。さらに、この不変量は実際にはいつでも有理数になることを証明した。さらに、このダイログ関数を用いて定義される不変量およびその有理性を量子化するという動機のもと分配q級数という不変量を定義し、分配q級数はいつでもモジュラー関数になるだろうという予想を与えた。そして、Rogers-Ramanujan型のq級数の恒等式を用いて予想が成り立つ例をいくつか与えた。
1: 当初の計画以上に進展している
クラスター代数上のT-システムと特定の性質を持った正方行列の二つ組の間の対応関係を確立できた。これにより、T-システムの問題をより扱いやすい正方行列の二つ組を調べることに帰着できるようになり、特に、新しい周期的なTシステムを具体的に発見することができた。このように、一般論の構築およびそれに基づいた具体的な発見が達成できたため、期待以上の進展があった。
これまでの研究により、本研究課題の中心であるミューテーション・ループの不変量たちは、ミューテーションの列よりむしろT-datumを用いたほうがより直接的に記述されるということがわかってきた。今年度は、T-datumを用いる手法を用いて、分配q級数と1-ループ不変量というミューテーション・ループの二つの不変量の関係を明らかにする。具体的には、分配q級数の漸近挙動から1-ループ不変量が得られるということを確かめる。また、共形場理論のフェルミ型公式との関係に着目して、これらの不変量の表現論的な意味も調べる。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Advances in Applied Mathematics
巻: 115 ページ: 101987~101987
10.1016/j.aam.2019.101987
Symmetry, Integrability and Geometry: Methods and Applications
巻: 16 ページ: -
10.3842/sigma.2020.028