本研究は,長期的な感覚運動統合訓練を積んだピアニストを対象とし,音楽家の運動想起能力における各感覚モダリティの寄与を検証し,更には感覚モダリティの嗜好性の個人差を同定することを目指す.第1年度での研究は,まず知覚情報処理能力に関する長期訓練による変容と背景メカニズムについて,心理物理実験を用い,検証を試みた. プロピアニストと非音楽家の安静時及び動作中における知覚能力を比較することで,長期感覚運動訓練が知覚情報処理に及ぼす影響を検証した.ピアニスト10名と,非音楽家12名を対象に安静時と動作時に音刺激による時間弁別課題を行い,動作時には,ピアノ鍵盤上とコンピュータキーボード上を実際に人差し指で叩いてもらった.安静時と運動時のすべての条件において,ピアニストは非音楽家よりも高い時間弁別能を持つことが明らかとなった.この結果は,音楽訓練を通した,聴覚機能の可塑的変化を示唆している.一方,動作時において,ピアニストはピアノ鍵盤上での時間弁別能が他の条件(安静時及びコンピュータキーボード上での動作時)に比べて著しく高く,非音楽家では条件間の差は見られなかった.これらの結果は,長期的な演奏訓練によって獲得されたピアノ固有の内部モデルを用いて,ピアニストは音のタイミングを予測し,知覚精度を向上させていることを示している.さらに,このピアノ固有の内部モデルはコンピュータキーボードを打鍵する際の知覚精度へ影響を及ぼさないことから,学習によって獲得される内部モデルは道具特異的な関係を示すことが示唆された. 平成30年度は,上記の研究結果を国内外の学会で発表を実施し,その中でもTohoku Universal Acoustical Communication Month 2018において,Invited Young Lecturerに選出され,招待講演を行った.
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