当初本研究ではキセノン原子を高次QED過程制御の標的としていたが、他の標的として229トリウム原子核にも着目し、アイソマー状態エネルギー探索の目的が本研究にも合致するものと判断し、研究対象を移行した。 アイソマー状態と基底状態間のエネルギー差は原子核の準位としては特異的に低く8.3eV程度であり、真空紫外レーザーによる励起やコヒーレンス制御の可能性がある。そのためには、アイソマー状態のエネルギーを精密に測定する必要がある。アイソマー状態からの脱励起によって放出される光は150nm程度の波長であり、これは真空紫外光であるため放出光は大気中を伝播することができない。よって、アイソマー状態探索に使用する光学系は真空中に設置する必要がある。また、光学系を構成する素子についても課題がある。なぜなら、真空紫外領域の光を透過することができる媒質が限られていることに加え、純度によっても透過率が変化する。また、表面状態(平滑度や汚染)によっても反射率が変化する。よって、アイソマー状態探索実験の信号領域の感度はこれらの非自明な光学素子特性のために推定が難しい。 そこで真空紫外領域における各光学素子(トリウムドープフッ化カルシウム結晶・ミラー・レンズ等)の特性を実測する装置を開発した。波長選択した光源と光電子増倍管を真空中に設置し、光路上に測定対象の素子を置くという形をとった。波長選択の方法として分光器を使用し、波長の掃引を行うことで透過率・反射率スペクトの測定が可能となったことで、信号感度だけでなくノイズの推定も可能となり、アイソマー探索実験装置全体のS/N比の推定が可能となった。 実際に光学素子の特性評価を行った。現時点では、波長選択ミラーと透過型バンドパスミラーについて詳細な測定を行った。これをもとに、効率的にアイソマー状態探索実験の装置開発が進められると考えられる。
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