研究実績の概要 |
前年度から進めている次の2つの方向性で研究を行った。 1つ目の方向性は「量子重力とはどうあるべきか」という問題を根本から見直す研究であり、我々は「量子重力理論において時空は創発するものである」という仮説のもとで研究を進めている。本年度では、Gross-Witten-Wadiaのユニタリー行列模型に我々の距離の枠組みを適用し、't Hooft coupling を確率変数とみなしてテンパリングを行った場合に創発する幾何を調べた。特に、この行列模型はラージN極限で3次相転移を持ち、行列固有値に対するポテンシャルがこの相転移点上でほとんど0になることから、対応する幾何がホライズンを持つことが期待できる。そこで我々は数値計算を用いてこの検証を行なった。ここで相転移点はNが無限大になって初めて現れるものであるから、Nを次第に大きくするに従ってホライズンの存在がより鮮明になるべきである。この点については、次年度でも引き続き精査を行う。 もう1つの方向性は「符号問題を解消するアルゴリズム」である「tempered Lefschetz thimble法」(TLT法)[Fukuma-Umeda(2017)]を開発することである。本年度では、より確実な推定を可能にするアルゴリズムをまとめた論文が出版されたほか[Fukuma-Matsumoto-Umeda, Phys. Rev. D 100, no. 11, 114510 (2019)]、大きな進展としてTLT法にHybrid Monte Carlo法(HMC法)を実装した。特に後者の研究では、TLT法に適用できるように分子動力学のアルゴリズムを発展させたこと、およびフェルミオンの零点がある場合の対処法を提案したことが重要な進展である。この内容は[Fukuma-Matsumoto-Umeda, arXiv:1912.13303]にまとめた。
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