研究実績の概要 |
わたしはこれまでに細胞質に高分子を効率的に送達することのできるペプチドHAadの創出に成功している。HAadと導入したい高分子を混合して細胞培地中に投与するだけで、高分子を細胞質に送達することが可能であることを示し、現在論文執筆中である。しかし、HAadの臨床レベルでの応用を図るためには、HAadとカーゴ(活性分子)を体内で解離することなく共存する形で患部に送達できるような方法論の開発が必要である。私は日本学術振興会特別研究員としての研究課題の一つにこの問題の解決を挙げている。そのために、関連領域の動向調査を行った結果、ウイルスキャプシドを利用することでより簡便かつ効果的に所望の結果が得られるのではないかと考えた。トマトブッシースタントウイルスのキャプシドタンパク質のうち自己会合に関与する24残基からなるペプチドbeta-annulusは、水中で自己会合し「人工ウイルスキャプシド」を形成する(Matsuura, K., Chem. Commun. 2018, 54, 8944.)。形成された人工ウイルスキャプシドにおいて、beta-annulusはそのN末端を内側に、C末端を外側に向ける。このため、N末端側にカーゴ、C末端側にHAadを結合させ、「カーゴを内封した人工ウイルスキャプシド上にHAadを提示させる」デリバリープラットフォームの構築を計画した。 検討の結果、beta-annulusのN末端側にNi-NTAを、C末端側にPEGリンカーを介してHAadのC末端を結合させたペプチドNi-NTA-beta-annulus-PEG12-C[HAad]が、Hisタグ融合EGFPを効率よく細胞質に送達できることが分かった。EGFPを内封した人工ウイルスキャプシドがHAadの活性により細胞質に送達されたのではないかと考えられる。
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