2020年度は、2019年度の新型コロナの影響により、既存の韓国社会を中心とする研究を日本において資料収集が可能なものに変更し、記念日研究としてまとめ上げた。3・1節や8・15光復節の研究においてキーワードとして浮上した「自主性」の系譜を明らかにするためにも、植民地時代における「日韓併合記念日」の研究は必要であり、今年度はその全体像を明らかにすることに重点的に取り組んだ。 2020年9月12日、メディア史研究会でズームを用いて「日韓併合記念日のメディア史―動員と抵抗の演出」を発表し、同発表をベースに「「日韓併合記念日」のメディア史―日本人本位の参加と「内鮮融和」の課題」を投稿して『メディア史研究』への掲載が決まった。「日韓併合記念日」が日本人本位の参加になっていたことをそのメディアの報道から明らかにし、従来、朝鮮人の抵抗の側面からのみ強調されがちだった「日韓併合」の歪みを日本人と朝鮮人の参加の側面から明確に浮かび上がらせた。 なお、「日韓併合記念日」に関する調査を進めていくうちに、もう一つの「日韓併合記念日」として「始政記念日」に着目する重要性にも気がついた。「日韓併合記念日」には、朝鮮人の自主的な参加がほとんど認められないが、「始政記念日」には多くの朝鮮人が記念行事に参加し、いわゆる「民族紙」はこれを大きく取り上げた。植民地支配に関する研究では、近年、日本人居留民のその支配への参加や朝鮮人の参加と抵抗の重なり合いについて徐々に明らかになってきており、本研究を進めることによって記念日をめぐる日本人と朝鮮人の参加の問題を幾分か明らかにできるものと思われる。両記念日は、韓国社会のみならず、日本社会においても現在では忘れ去られており、その意味を最も日韓歴史認識問題が争われている想起の時代に一度考えてみる必要がありそうである。
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