本研究の目的は、日本民間薬を中心とした天然物を素材として成分探索およびその誘導体合成を行い、得られた化合物の活性を評価して新たな作用機序を持つ抗単純ヘルペスウイルス(HSV)薬候補物質を探索することである。HSV は日本人の約 6 割が感染しているといわれており、脳炎、口唇ヘルペス等の多様な疾患を引き起こす。しかしながら、現在用いられている抗 HSV 薬のほとんどはウイルス DNA の複製を阻害するものである。一方、天然物は多種多様な構造を有しており、従来と異なった作用機序での抗 HSV 活性を持つことが期待される。 今回、含窒素、含硫黄化合物を豊富に含むことが知られているアブラナ科植物に着目した。素材として、ウイルス性疾患の予防に用いられるアブラナ科ホソバタイセイ (Isatis tinctoria) や薬用食品アブラナ科カブ (Brassica rapa) を用い、含有成分探索および関連化合物の合成を進めた。その結果、アブラナ科植物カブに紫外線および傷害ストレスを与えることで含硫黄、含窒素化合物を単離するとともに、その生合成経路を利用し、アミノ酸からワンポットで立体選択的に天然型および非天然型含窒素、含硫黄化合物を得ることに成功した。 一方、民間薬として用いられてきたアジサイ科植物アマチャ (Hydrangea macrophylla var. thunbergii) に着目し、その含有成分の誘導体を合成し、数十種類の化合物を得た。さらに、得られた化合物について抗 HSV-1 活性試験を進め、いくつかのアマチャ含有成分誘導体に比較的強い活性を見出した。
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