研究課題/領域番号 |
18J22804
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
野原 紗季 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 量子状態推定 / 位相推定 / 適応量子状態推定 |
研究実績の概要 |
物理学的に最小の分散で固定された量子状態を推定することが可能な適応量子状態推定を、実際の生体計測等へ応用させるために、本年度は主にその実験系の高速化の研究を行った。適応量子状態推定では、(1)偏光測定基底の更新(2)光子検出(3)尤度関数の計算、を1光子ごとに行うことで未知の入力の偏光角度を推定することが可能となる。しかし、これまでのシステムでは(1)の偏光測定基底の更新に要する時間が推定全体の8割を占めており、この制御に1光子あたり1秒を要していた。そこで、これまでは偏光測定基底の更新に機械ステージに設置した半波長板を使用していたが、これを応答速度の速い液晶偏光素子に変えることで推定の高速化を目指した。 本年度は使用する液晶偏光素子をより高精度に評価し、0.07°~0.21°の位相精度を持つことを明らかにした。これはこれまでの半波長板の位相精度0.8°に比べて非常に高精度であり、液晶偏光素子が高速推定システムに適用できることを確認した。また、液晶偏光素子を用いて、測定基底の更新に関しては30倍以上、推定全体としては5倍の高速化を実現した。これにより、ダイヤモンド窒素欠陥中心などの単一発光体からの発光から、光子の偏光状態推定が可能となる高速推定システムが構築された。 さらに、並行して時間的に変化する状態の適応量子状態推定に関する研究も行った。数値実験により提案手法の動作検証を行うと共に、適応量子状態推定の高速化の実験系を発展させ、時間的に変化する状態に対する装置の開発と検証実験に取り組んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、まず、液晶偏光素子の位相精度評価を精密に行い、これまで0.7°以下の位相精度を持つとされていた液晶偏光素子の位相精度が0.07°~0.21°であることを明らかにした。またこれは、以前の研究で用いていた半波長板の位相精度0.8°に比べて非常に高精度であり、液晶偏光素子を用いることで先行研究と同程度以上の高精度で高速に適応量子状態推定が行えることを示唆している。さらに、この評価した液晶偏光素子を用いて高速化の実験系を構築し、高速推定実験を行った。その結果、測定基底の変換に関しては30倍以上、推定全体としては5倍の高速化を実現した。この結果に対して統計的な評価を十分に行い、4つの入力状態に対してどの場合でも理論限界に達する推定精度を保ちながら、高速推定を実現していることを確認した。 また、以上の研究と並行して、時間的に変化する状態の適応量子状態推定にも取り組んだ。提案した時間的に変化する状態の適応量子状態推定が可能な、”連続適応量子状態推定”の動作検証を、数値シミュレーションにより行った。提案手法では、過去の情報を消すことで入力状態の時間変化に対応した推定を行えるが、過去の情報を消すことにより推定値が急激に変化してしまうという問題があった。そこで、過去の情報と似た情報を得るために、定期的に測定軸を変えることでこの現象を抑えることができるという提案をし、本提案を数値実験により検証した。その結果、実際の測定(光源がレーザーダイオードではなく、単一発光体など)に連続適応量子状態推定が適用できる程度にまでこの現象を抑えることに成功した。今後は、適応量子状態推定の高速化システムを発展させ、時間的に変化する状態に対する実験系の構築と検証実験に取り組む。
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今後の研究の推進方策 |
現在、0.07秒に1個の光子の出力に対応する高速推定システムと、時間的に変化する状態の適応量子状態推定が可能な連続適応量子状態推定を組み合わせた実験系の予備実験を終え、実現の見通しが立てれている状況である。 そこで本年度以降は、CdSe/ZnS量子ドットや窒化ホウ素h-BNなどの単一発光体からの発光を共焦点顕微鏡により確認し、高速適応量子状態推定システムを使用して、偏光状態推定を行う。そのために、まずCdSe/ZnS量子ドットや窒化ホウ素h-BNなどの試料の購入が必要となる。推定に用いることが可能な発光を得るために試料の作製、調整を行う。 これまでの高速推定システムでは、状態準備系としてレーザーダイオードからの発光を用いて偏光状態推定を行っていたが、単一発光体からの蛍光を観測するためには、状態準備系に共焦点顕微鏡系の構築が必要となる。共焦点顕微鏡系では、試料を励起させるための励起光の用意、試料からの発光の集光、試料が単一発光体であることの確認を行う。したがって、試料の発光波長に合わせた光学素子等の購入が必要となる。 試料からの発光波長に対応させた実験系を構築したのち、前年度までに構築した高速推定システムと組み合わせる。この高速推定システムで用いる光学素子等も、試料の発光波長に合わせた素子等を使用する必要があるため、再構築したのち共焦点顕微鏡系と組み合わせる。以上により構築した実験系を用いて、単一発光体から放出される光子の偏光角度推定を実現する。
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