研究課題/領域番号 |
18J22815
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
奥村 周 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | DNAナノテクノロジー / 等温増幅手法 / 分子計算 / パターン判別 |
研究実績の概要 |
本年度は,(1)線形分類器の閾値である入力DNA濃度の調整手法を確立した他,(2)入力となるDNAの種類が増えたケースにおける,化学反応ネットワークによる線形分離,また,(3)出力ノードが増加したケースにおける各出力DNA間の化学反応の連鎖,および独立性などを検討した。(1)当研究で開発を行った線形分類器の入力DNA濃度の閾値は出力DNA濃度の増幅速度および分解速度のバランスで決定される。当年度は,線形分類器反応中の出力DNA濃度の分解速度を増加させる調整を行うことで,閾値濃度の調整が可能なことを検討した。具体的には,分解速度を促進させるために,出力DNAを不活化させるドレインテンプレートの濃度を増加させた。ドレインテンプレートの増加により,閾値濃度が調節することができることを明らかにした。(2)では,多入力DNAの判別が可能であることを示すため,最大9種類までの異なる配列をもつ入力DNAからの変換テンプレートを新たに設計し,これらを連結させた線形分類器を利用したDNA濃度パターンの線形分離(DNA濃度の重みつき和のチューニングや非線形性の確認,反応温度の最適化,各酵素濃度調整による反応速度のコントロール等)についてin vitroの実験系を利用し,詳しく検討を行った. (3)は,線形分類器の出力多層化に該当する内容である。新しく双安定性スイッチとなる出力DNAの配列のデザインを行い,その各種テンプレートをデザインした.そして,これらの異なる配列をもつ出力DNAの双安定システムを3種類まで同時に独立して反応させることができるかどうか,すなわち,各インジケータ間のクロストークの有無や,蛍光リークなどの脆弱性となりうる部分をin vitro実験系を用いて詳しく検討し,設定温度の調整や選択する蛍光の種類を変化させることによってこれらの問題を低減可能であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画における初年度は研究目的として、診断システムに必要な線形分類器の基盤開発を行うことを掲げた。本研究の最終的な研究目的はリキッドバイオプシーのための診断システムの構築であり、10種類以上のバイオマーカー(miRNA)が混在する状態で、その濃度パターンを判別し、特定のDNAを合成することで診断が可能なマスターミックスの開発である。そのためには分子演算を実行可能な、化学反応ネットワークのアセンブリ手法のプラットフォームを構築することが必要となる。そこで、本研究で開発するDNAパターン判別システムをより多数の入力と多数の出力に対応できるように新たにデザインを行なった。具体的には、変換テンプレートやスイッチシステムの設計を新しくデザインした。その結果、修士の研究をベースとして、より他入力かつ他出力のシステムに対して、線形分離が可能であることを確認した。具体的に本年度検討した点は(1)線形分類器の閾値である入力DNA濃度の調整手法を確立した他,(2)入力となるDNAの種類が増えたケースにおける,化学反応ネットワークによる線形分離,また,(3)出力ノードが増加したケースにおける各出力DNA間の化学反応の連鎖,および独立性の確認、を行った。これらの成果を学会にて発表を行った。当初予期していなかったこととしては、線形分類器における偶発的に発生するノイズによる信号増幅に対する処理手法の研究も行った。具体的には、算出されるインジケータDNAが、標的となる配列がなくとも合成されてしまう現象であり、EXPAR(等温増幅手法)における誤診の原因になりうる。この分子ノイズを取り除くために、利用する実験器具の抗DNA処理や、変換テンプレートの配列の再設計を検討した。実験により、上記の操作でノイズを低減できることが確認された。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画の概要として、(1)今までにシステムを用いてなどの論理回路と組み合わせた、より複雑なパターン判別手法の構築を行うとともに、(2)細胞株のパターン判別に対しても適用し、PENによるパターン判別手法を確立することを目指す。具体的には、これまでに構築した線形分離システムの出力DNAと、インヒビター機構やDNAのストランド置換反応を利用したANDゲートやORゲートを組み合わせたパターン判別を行なったり、また、線形分類器のチューニングにあたる手法の開発および出力ごとのアフィニティの違いの調整手法など、システムのチューニング部分についてのより詳細な検討を重ねることを目指す。具体的には、パターン判別にはそれぞれの入力DNAに対して個別に重みを設定する必要がある。この個別の重みの設定手法については既に検討を行なったが、多数のストランドを取り扱う際には、できる限り用いるストランドの種類を少なくすることが望ましいため、開発を検討している。また、液滴プラットフォームを用いた線形分離の評価手法をマルチターゲットに適用させることについても検討を行う。DNAビーコンを用いた蛍光強度の測定により行われるため、蛍光の出力として2種類までのDNAのみに留まっていたが、新たなフィルターを利用することで、3種類までのインジケータDNAの解析が可能であることを検討する。(2)細胞から得られるmiRNAをターゲットとし、そのパターンをPEN DNA tooboxによって設計したパターン判別システムを用いて分類することで、細胞腫が判別できることを証明することを目指す。具体的には、正常細胞、がん細胞でそれぞれ発現蛍光が変化するバイオマーカを同定したのち、PEN DNA toolboxを用いてこれらを検出し、パターン判別ができるようなシステムをデザインする。
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備考 |
申請者の所属研究室のホームページに、当研究に関する記述を記載した。
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