研究課題/領域番号 |
18J22838
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
齊藤 颯 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | ベンゾフラン / ジシラン / シリル銅 |
研究実績の概要 |
1年目の研究として新規ボラサイクル合成法を開発する傍ら、同様の反応をホウ素以外のヘテロ元素にも展開し、ケイ素挿入反応を実現する検討を行った。その結果、銅触媒および塩基存在下ベンゾフランに対しジシラン反応剤を作用させることで、フラン骨格の開環を伴うシリル化反応が温和な条件下進行することを偶然見いだした。 本反応で用いるケイ素反応剤としては1,2-di-tert-butyl-1,1,2,2-tetramethyldisilaneが最適であり、他のジシランやシリルボランは有効ではなかった。このジシランは過去に合成報告はあるものの、有機合成において反応剤として用いられた例は無く、他の反応へのさらなる適用も期待される。 溶媒が本反応に与える影響は極めて大きく、THFまたはピリジンを溶媒として用いた時にのみ生成物が得られた。収率の向上を目指してさらなる検討を行ったところ、THFとピリジンを3:1の体積比で混合した共溶媒系が特に有効であった。 本反応は、ジシランと銅塩から系中で生じたシリル銅種による付加-脱離型の機構で進行していると考えられ、理論計算により想定反応機構が妥当であることも確認した。 なお、反応剤としてシリルリチウムを用いた同様の反応をStuder(独)が報告しているが、シリルリチウムの極めて高い反応性に由来して基質適用範囲が限られるという欠点があった。一方本反応では、シリル銅種はシリルリチウムと比べて反応性が穏やかであるため、クロロ基などのハロゲン原子も共存可能であった。 生成物はビニルシランとして十分な反応性を有しており、パラジウム触媒を用いたヨードアレーンとのクロスカップリング反応が良好な収率で進行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画では新規ボラサイクル合成法の開発を目指していたが、これについては未だ達成できていない。しかし、検討の途中で偶然にもジシラン反応剤の興味深い性質を見いだしただけでなく、活性化基を用いずとも銅触媒によってベンゾフランを開環できることも発見し、多くの予期せぬ成果が得られた。ベンゾフラン骨格の開裂を伴う触媒的なシリル化反応はこれまでに例がなく、ヘテロ芳香環の骨格変換反応の新たな方向性を示すものであると言える。さらに、反応に用いた1,1,2,2-tetramethyl-1,2-di-tert-butoxydisilaneは、その有用性が評価されたことで試薬会社による市販が開始されており、社会的インパクトの大きい研究成果であることは疑いようがない。ベンゾフランの開環シリル化で得られた多くの知見は、遷移金属触媒を用いたボラサイクル合成法を開発する上で多くの示唆を与えるものである。 これらの理由から、本研究課題はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今回、シリル銅がベンゾフランを容易に開環可能であることを見いだしたが、同時期にStuder(独)らはシリルリチウムを用いたベンゾフランおよびインドールの開環シリルを報告している。これらの知見を踏まえると、シリル銅に類似の化学種であるボリル銅を用いたベンゾフランやインドールの開環ボリル化も十分可能であると期待できる。 当初の計画において、ボリル銅種の1,2-付加に基づくインドール骨格の開環には、窒素原子上のスルホニル基および3位のエステル基といった複数の電子求引性基が必要であると予想していた。一方、Studerの開環シリル化ではインドール骨格に電子求引性基を導入せずとも反応が進行しているため、最低限の置換基のみを有する単純なインドール類の方が開環官能基化においてより有利である可能性がある。当初の想定にとらわれることなく柔軟に基質を選択することで、インドール類の開環ボリル化と続く閉環によるホウ素挿入反応の実現を目指す。単純なインドール類でのホウ素挿入を達成した場合、電子的摂動の程度が小さいアザボリン骨格が得られるため、電気化学的性質や光物性などを測定してマテリアルへの応用可能な分子を探索する。
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