研究課題/領域番号 |
18J22842
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
柳 智征 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | シグマトロピー転位 / ビアリール / アリールスルホキシド / カルボキシル化 / ニッケル触媒 |
研究実績の概要 |
以下の成果を得た (1)シグマトロピー転位を鍵とするアリールスルホキシドとアニリンのカップリング反応 以前申請者は、芳香族スルホキシドとフェノールをトリフルオロ酢酸無水物存在下で反応させることで、一時的な硫黄酸素結合の形成による二つの芳香環の連結と続く[3,3]シグマトロピー転位によって対応するビアリールが得られることを報告した。今回、フェノールに代えてアニリンをカップリングパートナーとすることで、本手法のアミノビアリール合成への展開を目指した。検討の結果、フェノールを用いた場合と同様、一時的な硫黄窒素結合の形成による二つの芳香環の連結は確認できたものの、硫黄窒素結合が強固なためか後続の転位反応は進行しなかった。そこで、硫黄窒素結合の開裂の促進を狙い、強酸を添加したところ転位が進行し、目的のアミノビフェニルが良好な収率で得られることを見いだした。さらに、中間体の単離、反応性の検証によって、これまで報告例のないジカチオン性スルホニウム塩の転位反応が本反応の鍵であることを明らかにした。 (2)ニッケル触媒による芳香族スルホニウム塩のカルボキシル化反応の開発 昨年度見いだした反応条件をもとに、開発した芳香族スルホニウムのカルボキシル化反応の基質適用範囲と反応機構の検討行った。その結果、温和な反応条件に起因し、本反応は高い官能基許容性を示すことが明らかになった。また、反応機構検討によって、類似のニッケル触媒によるカルボキシル化反応において想定されている機構とは異なる機構で反応が進行していることを示唆する結果が得られた。そこで、スペインのカタルーニャ化学研究所のRuben Martin教授のグループと共同で、単離したニッケル錯体を用いた詳細な機構検討を行い、これまで見過ごされてきた反応経路の関与を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画していたアニリン-N-オキシドのカップリング反応の開発に向け鋭意検討を行っていたものの、アニリン-N-オキシド由来の中間体の反応条件下での分解が問題となり、これまでのところ目的の反応の進行は確認できていない。今後さらに、適切な求電子剤や活性化剤の検討を進め、活性中間体の分解を抑えつつ、目的の転位を進行させることのできる反応系の構築を目指す。
またこれと並行して、アニリンとアリールスルホキシドのカップリング反応の研究を進め、論文誌に投稿した。さらに、本研究の鍵となる転位反応の性質解明を目的に、量子化学計算による反応解析にも取り組んでいる。予備的な知見ではあるが、すでに本形式のシグマトロピー転位に特徴的な性質を見いだしており、今後新規反応開発へ得られた知見を活用していく予定である。 当初の計画から若干の変更が必要になっている部分もあるが、大枠では研究課題であるシグマトロピー転位を基軸とする芳香環化合物の官能基化反応の開発は進展しているといえる。
さらに、日本学術振興会若手研究者海外挑戦プログラムの支援のもと開始した、芳香族スルホキシドのカルボキシル化反応に関する研究をまとめ上げ、論文誌に投稿することができた。
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今後の研究の推進方策 |
申請者がこれまで開発を進めてきた「シグマトロピー転位を基軸とするビアリール合成」の有用性を示す応用例として、先述のフェノールと芳香族スルホキシドを用いたカップリング反応を鍵とするヘリセン類の包括的合成研究を行う。 ヘリセンとは芳香環がらせん状に縮環した構造を有する多環芳香族化合物であり、お互いに鏡像異性体の関係にある右巻き分子と左巻き分子が存在する。そのため不斉中心を持たないにも関わらずキラル物性を示すことから、近年大変注目を集めている。中でも、その骨格中にヘテロ元素を含むヘリセンはヘテロヘリセンと呼称され、導入されたヘテロ元素に応じて大きく異なる特性を示すことが知られており、有機材料などへの応用研究も進められている。しかし、これまで埋め込まれた元素と物性の系統的な検討例は限られていた。そこで申請者が開発した反応をベースにした有機硫黄化合物の特性を生かした反応経路設計によって、共通の炭素骨格を持ちながら4種の異なる元素が置換したヘテロヘリセンを合成し、それらの物性の系統的な比較検討を行う。 また現在、申請者は量子化学計算によるフェノールと芳香族スルホキシドのカップリング反応の反応機構解析を並行して行っており予備的な知見を得ている。今後、実験的な反応機構解析によって得られたデータとのすり合わせを行い、量子化学計算によって得られた反応機構の妥当性の検討に取り組む予定である。特に本研究の鍵となる転位段階の性質解明に注力し、転位の進行に必要な要素の解明を目指す。さらに、量子化学計算によって得られた知見をもとに、ビアリール合成に限らずシグマトロピー転位を鍵とする芳香族化合物の新規官能基化反応の開発に取り組む。
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