研究課題/領域番号 |
18J22888
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
梅本 滉嗣 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | ホログラフィー原理 / AdS/CFT対応 / 量子もつれ |
研究実績の概要 |
本年度の研究実績は、以下の2つに大別できる。(1)場の理論・重力理論における純粋化量子もつれの研究の進展、(2)混合状態に適用可能な量子もつれ測度の場の理論における研究。まず(1)については、2017年度に提案した「純粋化量子もつれと、エンタングルメントウェッジの最小断面積を表す幾何学量が、ホログラフィー原理の下では等価である」という予想を発展させる研究を、以下のように行った。第一に、自由場の基底状態における純粋化量子もつれを、格子化と数値計算の手法に基づいて、ガウシアンクラスの純粋化について計算した。その結果、純粋化量子もつれは物理系の間の距離の関数として、相互情報量などと異なり、単純な減衰則ではなくプラトー状の振る舞いを見せることを明らかにした。第二に、純粋化量子もつれを、一般の量子系およびホログラフィックな系の場合において、多体相関に適用可能な形に拡張し、さらにそれらの情報論的な性質が等価であることを示した。これらの純粋化量子もつれに関する研究成果に基づいて、超弦理論の国際総会Strings 2018において口頭発表を行った。第三に、共形変換に関して不変な場の理論(共形場理論)上の純粋化量子もつれを、経路積分の変形によって複雑性を最小化したクラスの純粋化について計算し、特に物理系が近接する極限において予想された公式が実際に成り立つことを示した。特にこの結果はPhysics Review Letter誌に掲載された。次に(2)については、場の理論における混合状態の(純正な)量子もつれ測度として、共形場理論上の相対エントロピーエンタングルメントの計算を扱った。その結果、場の理論における量子もつれの構造が、理論のスペクトラムに依存してまったく異なる振る舞いを示す可能性を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の研究は、特に場の理論・重力理論における純粋化量子もつれに関する研究が中核を成している。これは元々、着想された段階では公式の発見に年単位の長い時間が掛かると予想されていた研究課題が、所期の予定を上回る早さで双対となるべき情報量(純粋化量子もつれ)を見出したことに端を発しており、この研究自体が計画を前倒しにして行われている。それに加えて本年度は、上述の通り、純粋化量子もつれの研究に関して、多体相関への拡張や、具体的な物理系の中での特性の発見、共形場理論における解析的な計算による公式の確認と、多くの進展を得ることができた。さらに、共形場理論における混合状態の純正な量子もつれ測度の研究についても、具体的なある測度(相対エントロピーエンタングルメント)の計算から、量子もつれの構造が理論のスペクトラムに依存していることを明らかにし、この方向性において一定の道筋を得ることができた。以上の理由から、現段階において、本研究課題は当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の到達目標は、量子情報理論の知見を駆使することによって、ホログラフィー原理の一般的なメカニズムの解明に迫ることである。 純粋化量子もつれと重力理論における幾何学量との双対性の公式に関しては、これまでの研究から数々の非自明な傍証を得ており、今後はより直接的に一般的な状況下で公式を証明する方法を開発することが主な目的となる。さらに、その公式が示唆する、Anti de Sitter時空の無限遠の境界面に限らない一般的な超曲面上のホログラフィー原理(Surface/State対応)についての研究は、ホログラフィー原理の幾何学的な機構を明らかにする可能性を有している。また、純粋化量子もつれの強相関系における性質の解析や、多体純粋化量子もつれの情報論的な意味付けの研究は、素粒子物理学の枠を超えて、物性理論および量子情報理論にも寄与し得るものとして興味深く、今後の研究課題となる。 この他、多体相互情報量などの様々な情報量を用いることで、重力双対を持つような量子状態の構造を、情報論的な制約から特定する研究を行う。さらに情報理論における操作論的な技法を、場の理論・重力理論に対して適用する方法が分かれば、ホログラフィー原理を解析する強力なツールとなることが期待される。また静的かつ古典的な時空において、解析手段の基礎が整った後には、traversableなワームホールなどのダイナミカルかつ非古典的な時空を扱うことで、時空のより量子的な形成過程にアプローチする。
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