研究課題/領域番号 |
18J22890
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山守 瑠奈 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 貝類の笠型化 / 岩盤穿孔者 / 住み込み共生 / 幼生着底 / 海洋生物学 |
研究実績の概要 |
巻貝はらせん状の殻を持つ仲間だが、彼らは長い歴史の中で複数回、貝殻の笠型進化を遂げてきた。その笠型進化の進化的要因と形態の変遷過程を探るため、小さい系統で笠型化の過程が見られる巻貝のグループ、ニシキウズガイ科のチビアシヤガイ亜科を対象に、生態学的・形態学的な調査を行なっている。チビアシヤガイ亜科は日本産4種を含み、1種は典型的ならせん型の殻を、2種は完全な笠型の殻を、そして残りの1種はらせんと笠型の中間的な殻を持つ。 2018年度は、まず日本産チビアシヤガイ亜科4種の生息環境をそれぞれ詳細に調べた。結果、笠型の殻を持つ2種は ①荒波空間 ②狭隘なウニの巣穴の中 という2つの異なる環境に生息することがわかった。また、軟体部の解剖の結果、笠型化に伴って殻が扁平になった時に、筋肉が大幅に伸長することがわかった。これらの結果は、ごく近縁な種であっても笠型の貝殻は異なる環境に適応的であることを示し、笠型化の形態進化過程を世界で初めて明らかにした成果として、国際誌に掲載済みである(Yamamori and Kato 2018, PLOS ONE)。さらにウニの巣穴に共生するハナザラについて、その幼生着底がホストのウニに誘引されることを室内実験によって明らかにした(Plankton and Benthos Research, accepted)。 また、継続調査として、和歌山県白浜町の岩礁地帯のウニの巣穴約500個について、占有ウニ種の記録を毎月行っている。本調査は2017年から実施しているが、2018年2月の黒潮大蛇行に伴う海水温低下によって、生息していたウニが7割近く死滅した。水温低下からの約1年経った現在、ウニ個体群の回復は未だ約2割程度に留まっているが、この先も継続的に記録を行なうことで、ウニの変遷と個体群の回復状況の双方を観察していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
岩盤域の住み込み共生について、以下の調査に取り組み、論文投稿及び学会での発表を行った。①ニシキウズガイ科で唯一完全な笠型化を果たしたチビアシヤガイ亜科の生息環境を詳細に調査し、笠型の貝殻の適応的環境および貝殻の巻きを失う進化における軟体部の変化の過程を明らかにした(Yamamori & Kato 2018, PLOS ONE)。②和歌山県白浜町の瀬戸臨海実験所に毎月通い、ウニの巣穴の占有者の調査を行った。③巣穴二次利用するウニの巣穴に絶対的に住み込み共生する貝類ハナザラの幼生着底要因を室内実験により検証し、宿主となるウニに誘引されて着底することを明らかにした(Yamamori & Kato 2019, Plankton and Benthos Research, accepted)。さらに、沖縄県における石灰岩地および珊瑚礁における硬質基盤の住み込み生物調査において、死サンゴ下に生息するガンガゼモドキの体表から新種のエボシガイを発見した。本種はウニの殻を改変して保護的空間を作り、その中に生息するという特異な生態を持つ。ウニの殻を改変する現生の生物は深海にしか生息しないため、本種は浅海におけるウニの殻改変者として、初めての例となった(PLOS ONEに投稿中)。以上のように、本研究は当初予定していたもの(①・②)に加えて来年度実施予定であったもの(③)を先行して行うことができ、また新発見による新たな課題(④)への着手ができた。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度はウニの巣穴を取り巻く共生者群衆について調査を実施した。2019年度は、2018年度に発見した新種のエボシガイ(前項目④)の記載を進めるとともに、他の環境の岩盤穿孔者の調査にも着手する。最も中心となる環境は、奄美大島の泥岩帯となる。2018年度の予備調査によって、この地帯の潮間帯の岩盤穿孔者は二枚貝類に代表されること、そして、その巣穴は二枚貝類の死後、テッポウエビ類等によって二次的に利用されることがわかっている。さらに、同海岸の潮間帯上部で新種の穿孔性二枚貝を発見した。本種は穿孔性二枚貝類の中でも他に類を見ない特異な形態を持っており、その形態および系統的位置の精査は、貝類学上重要な成果となる見込みがある。また、静岡県の御前崎に代表される本州の泥岩地帯にも調査域を広げ、穿孔者と二次利用者相の調査を実施する予定を立てている。
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