研究課題
有機電子材料分野の発展に伴い、新規π電子化合物の開発の重要性が増している。このような化合物の合成において、ヘテロ原子のπ電子化合物への導入が注目されている。その例としてヘテロ[8]サーキュレンがある。この分子は中央の八員環にヘテロ芳香環が放射状に縮環した化合物の総称である。ヘテロ原子の効果により特異な発光特性、電荷輸送性が発現するため、有機電子材料への応用が期待できる。しかし、ヘテロ[8]サーキュレンの合成例は数例に限られており、その物性に関する研究は少ない。本研究はピリジン環を含む新規ヘテロ[8]サーキュレンの合成および物性の解明を目的として行った。具体的にはすでに合成に成功しているテトラアザテトラチア[8]サーキュレンの分子変換を検討し、テトラアザテトラチア[8]サーキュレンスルホン化体およびオクタアザ[8]サーキュレンの合成に成功した。前者は電子求引性基であるスルホニル基とイミン型窒素に由来し、4段階の可逆な還元波を示した。さらに電解吸収スペクトルおよび還元剤の滴定実験によって、そのラジカルアニオンおよびジアニオンは1000 nm以上の近赤外領域に吸収を示すことを明らかにした。後者はピロール環とピリジン環が交互に縮環した分子である。そのため、塩基および酸に応答し吸収スペクトルおよび発光スペクトルが変化した。また単結晶X線構造解析にも成功し、高い平面性をもつことを明らかにした。
1: 当初の計画以上に進展している
本課題ではヘテロール縮環ベルト型パイ共役化合物の合成および物性の解明を目的として行った。当該年度は、前駆体であるシクロ[8]チオフェンの官能基化を検討することができた。さらに報告者は申請段階では全く想定していなかったピリジン環を含む新規ヘテロ[8]サーキュレンに関する研究について深く検討することができた。これまでに全く報告例のなかったオクタアザ[8]サーキュレンの合成を達成したことは大きな成果である。この化合物は外周部の窒素原子による酸との会合体形成など興味深い性質をもつことを明らかにし、そのほかの物性、機能性についても詳細に解析を進めている。ヘテロ[8]サーキュレンにピリジン環とピロール環を交互に縮環した例は全くなく、その性質について明らかにしたことは含ヘテロ機能性π電子系の設計指針に重要な知見を与えるものである。以上の点から「当初の計画以上の進展」があったと考える。
今後は得られたオクタアザ[8]サーキュレンの光物性および反応性について詳細に検討する。具体的にはアミン窒素の酸化やイミン窒素のアルキル化を行い、外周部のヘテロ原子の反応性を生かした中央の八員環の共役系の制御を行う。これらの達成により、芳香族・反芳香族性のスイッチングが可能になるだけでなく、新規π電子化合物の設計指針に新たな知見を与えることが期待できる。
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Journal Organic Chemistry
巻: 85 ページ: 62 69
10.1021/acs.joc.9b01655