研究課題
花弁や萼、苞などの花器官が著しく伸長している植物は多くの科より知られているが、その進化要因や生態的な帰結に関してはこれまでほとんど明らかになっていない。本研究は萼裂片の長さが著しく異なるウマノスズクサ科カンアオイ属の近縁種:オナガカンアオイトサノアオイを対象に、訪花昆虫観察と花粉親推定、空間遺伝構造推定、交配実験、栽培実験を行った。訪花者観察の結果から、両種においてヨコエビ類やトビムシ類などの地上徘徊性動物や双翅目昆虫の訪花が確認されたが、訪花頻度は1花1時間あたり0.05匹以下と非常に低かった。オナガカンアオイのほうが双翅目昆虫の訪花頻度がトサノアオイより3倍以上高かった。各種とも結果率は比較的低く、平均して20%程度であった。野外集団より採集した種子の花粉親を推定したところ、両種とも自殖を行っているが、トサノアオイのほうが有意に自殖率が高かった。交配実験の結果から両種とも自動自家受粉は行わないが、自家和合性を示すことが明らかになった。更に栽培実験と近交係数の比較から、発芽以降の段階において近交弱勢が発現している可能性が示唆された。両種とも種子の分散能力が低く集団内において強い空間遺伝構造を示すことから、より遠く(遠縁)の個体と交配を行える移動性が高い訪花者を誘引することは適応的であると考えられる。したがってオナガカンアオイの著しく長い萼裂片は双翅目昆虫を誘引し、他殖を促進するために進化した可能性があることが、本研究より明らかになった。
令和2年度が最終年度であるため、記入しない。
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Journal of Biogeography
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