研究実績の概要 |
胎生期の神経幹細胞は神経管全体に存在するが、成体になると脳の非常に限られた場所にしか存在しなくなる。胎生期の神経幹細胞(神経系前駆細胞)のごく一部の細胞のみが、成体まで残る細胞として選ばれる機構は未だ明らかでない。興味深いことに我々は、胎生期の分裂頻度の高い神経系前駆細の中に、一部分裂頻度の低い細胞が存在し、少なくともその一部が成体神経幹細胞となる事を報告した (Furutachi et al., 2015)。しかし分裂頻度の低い神経系前駆細胞の中には、成体神経幹細胞になる細胞だけではなく、グリア細胞や上衣細胞になる細胞も混在している。分裂頻度の低い神経系前駆細胞は均一な集団で、その後の環境により異なる運命を辿るのか、それとも、そもそも分裂頻度の低い神経系前駆細胞は不均一な集団で、その一部に既に成体神経幹細胞になることが運命付けられた細胞群があるのかは明らかになっていない。もし胎生期の時点で既に成体神経幹細胞になることが運命付けられた細胞群が存在するならば、その細胞群は成体神経幹細胞に似た性質を持つことが予想される。そこで本研究では、単一細胞トランスクリプトーム解析を用いて分裂頻度の低い神経系前駆細胞の不均一性を解析し、 成体神経幹細胞の真の胎生期「起源細胞」を同定すること、およびその性質を明らかにすることを目的とした。 当該年度では計算科学を用いた解析により、前年度に同定した分裂頻度の低い神経系前駆細胞のサブタイプのうち、成体神経幹細胞の起源細胞を予測した。さらにその集団で高発現する遺伝子の過剰発現により、成体神経幹細胞の形成が促進されることを示唆する結果を得た。 本研究を通じて、将来成体神経幹細胞になりうる集団を同定し、その形成機構の一端を明らかにできたと考える。
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