研究課題
本年度は、強誘電体HfxZr1-xO2 (HZO)薄膜の汎用性拡大を目的として、プロセス温度の低温化及びそのメカニズムの解明に精力的に取り組んだ。近年、強誘電体HZO膜を形成する手法として、3次元構造への原子レベルでの均質成膜が可能な原子層堆積(ALD)法が広く用いられている。また、HZO膜は上下TiN電極で挟み込んだTiN/HZO/TiN構造形成後に熱処理することで、プロセス温度400°Cでも良好な強誘電性が得られることが報告されている。一方で我々は、電極材料に依存することなく、且つ更なる低温プロセスの確立を目指して、ALD法に用いられる酸化剤ガスに着目した。一般的にALD法によるHZO膜の酸化剤としてH2OやO3が用いられている。一方で本研究では、これらH2OやO3よりも酸化力及びエネルギーの高いプラズマO2を用いてHZO膜を形成することで、成膜直後の結晶性を制御することができ、結果として強誘電性を得るために必要な後の熱処理温度を300°Cまで大幅に低下させることに成功した。また、これら強誘電体HZO膜の実デバイス応用へ向けた課題の一つである分極反転回数の増加に伴う強誘電性の劣化の原因について、上記の技術を用いて低温形成したHZO膜により明らかにしたと共に、これら低温形成技術の有用性を信頼性の面からも証明できたことは大きな進展である。これらの研究成果は、国内外の学会発表や学術論文等で積極的に情報発信した。なお、これらの研究は、物質・材料研究機構、テキサス大学ダラス校及びブルックヘブン国立研究所と共同で実施した。
2: おおむね順調に進展している
本年度は強誘電体HZO薄膜の成膜手法としてプラズマO2を用いたプラズマALD法を採用することによって、最高温度300°Cの低温プロセス化を実現した。また、疲労特性の原因究明にも取り組んだ。これまでに得られた成果は、APL Materials等の学術論文誌に2報掲載されたと共に、査読付き学術論文に1報投稿予定である。また、筆頭で国際学会3件、国内学会1件を報告した。更に、2019年10月に、不揮発性メモリの国際会議である19th Annual Non-Volatile Memory Technology Symposiumで“Best Poster Award (3rd place)”を受賞したことは、これら成果が本分野の発展に世界的にも貢献したことが認められたものだと考えている。以上より、これらの研究成果は、強誘電体HZO膜の更なるデバイス応用へ向けて産業的及び学術的にも貢献できたと共に、本プログラムの目的である強誘電体HZO薄膜の強誘電性向上及びそのメカニズムの解明に向けて順調に進展していると考えられる。
今後の研究課題として、ALD法の酸化剤ガスだけでなく、ALD原料や成膜温度といったALDプロセス条件が強誘電体HZO薄膜の結晶性及び強誘電性に及ぼす影響を電気・物理的評価を駆使することで詳細に解明すると共に、更なる低温プロセス化を目指す。また、HZO膜を低温プロセスにより形成することで低リーク電流特性を実現できることが期待されるため、低温プロセス化と並行して本プログラムの目的であるHZO膜の更なる薄膜化(< 5 nm)に取り組む。また、これまでの研究成果で、結晶化したZrO2薄膜をHZO膜の核生成層として利用することでHZO膜の強誘電性が大幅に向上することが分かっている。しかし、反強誘電体として知られているZrO2膜はプロセス条件を変えることで強誘電性を示すことが報告されている。従って、HZO膜とZrO2核生成層を組み合わせたHZO/ZrO2積層構造を形成した際のZrO2膜の結晶性及び電気特性を詳細に調査すると共に、ZrO2膜がHZO膜に及ぼす影響の解明を試みる。上記研究計画は、物質・材料研究機構及び昨年度に研究留学したテキサス大学ダラス校のJiyoung Kim教授の研究室と共同で実施する予定である。今後進展した内容は、学会等で定期的に発表して意見交換をすると共に、これまで同様、学術論文にて情報を発信する予定である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 5件)
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