研究課題/領域番号 |
18J23021
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小林 佳吾 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 金属ナノ粒子 / パラジウム / ホウ素 / 希土類元素 |
研究実績の概要 |
本研究は、従来遷移金属を中心に探索が行われてきた新規合金ナノ粒子の研究に、新たに軽元素および希土類元素という選択肢を追加し、さらに自由度の高いナノ材料の設計・開発を行うことを目的としている。本研究では軽元素としてホウ素を選択した。前年度までに、ナノサイズでのみ報告されている合金相であるPd-Ru合金ナノ粒子をホウ素(B)を含む試薬で処理することで未報告のPdRuB非晶質合金相を形成することを見出したが、種々の問題により短距離秩序の解明が困難であるという結論に至った。 本年度は物質としての特性化を断念し、他の方法で物質が保有する性質の解明を試みた。PdRuB合金ナノ粒子には常温下でホウ素が脱離しPdRu合金ナノ粒子に戻るという性質が確認されたため、これに伴いPdRu合金ナノ粒子の表面構造が乱され、触媒活性等に影響すると考えられた。検証のため、合成したPdRuBナノ粒子を窒素雰囲気下で加熱しホウ素を脱離させて、もとのPdRu合金ナノ粒子と比較検証した。CO酸化反応触媒としての活性は若干向上していることが判明したが、詳細な表面構造を探索できないことからその挙動の起源は解明されなかった。 これとは別に、遷移金属と希土類金属による合金ナノ粒子の合成に新たに着手した。希土類元素としてはガドリニウムを選択した。合成法は液相同時還元法を採用した。希土類元素イオンを還元できる還元剤として有機溶媒中における溶媒和電子を利用した。しかし、合成したナノ粒子は粒径が小さく、溶媒中から回収することが困難だった。貧溶媒を追加することで遠心分離に成功したが、元素マップの結果合金化は観測されなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本年度における研究の進捗の遅れは、1つにはPdRuB合金ナノ粒子に関して課題申請時に立てた目的を達成できないことが、前年度終了時点でほぼ明らかになってしまっていたことにある。もともと、課題申請の段階ではPdRuB合金ナノ粒子の結晶構造や電子状態に対する知見を得ることを本研究の目的と定めていた。しかし件のPdRuB合金ナノ粒子は非晶質であるために結晶構造が定義できず、測定における技術的な問題から短距離秩序の解明にも至らなかった。常温下で分解するという試料の性質上、光電子分光法等による実験的なバンド構造の導出は困難であり、モデル構築がならないために理論計算からのアプローチも不可能だった。こうした制約の中で、論文化のための方向性の大幅な修正を余儀なくされた。 希土類元素を用いた合金ナノ粒子に関しては、生成物を回収するための技術を確立する必要性が生じたことが本年度の遅延の原因である。溶媒和電子を用いた還元では生成物の粒径が数nm程度のサイズまで小さくなり、従来の遠心分離による回収が適用できなかった。また同時還元法だけでなく、ガルバニック法による希土類元素と遷移金属元素の置換で合金化を目指したが、これも遷移金属が核を形成してしまい、成功しなかった。このような合成法の開拓の難航が、今年度の遅延をもたらすこととなった。
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今後の研究の推進方策 |
PdRuB合金ナノ粒子に関しては、現状ではこれ以上の研究の深化が期待できないことから、保有している結果から論文化に向かう方針である。遷移金属側の組成比の変化による相挙動の差異が確認されているため、これを基に結晶性の消失を支配するファクターを考察する。 遷移金属-希土類金属合金ナノ粒子に関しては、遠心分離による回収を容易にするため、担持体を用いる方法を中心に合成手法を検討していく。また遠心分離が使えない場合に備え、減圧によるナノ粒子分散液からの溶媒の留去のための設備を組み立てる。担持体としてはカーボン、シリカ、セリアなどが候補となる。遷移金属の合金ナノ粒子の研究でこのようなアプローチを試みてきた外部研究者と共同研究を行うことも視野に入れる。その共同研究者の研究内容に基づき、還元雰囲気下での焼結による合金化も手段の一つとして取り入れる。 またこれまで、希土類元素としてはガドリニウムに注力してきたが、その元素の選定も考慮する。価電子バンドのエネルギー位置から、遷移金属と最も有効に相互作用するのはセリウムであると考えられ、今後セリウムを用いた合金ナノ粒子にも並行して取り組んでいく。
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