研究課題/領域番号 |
18J23089
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
伊藤 翔 京都大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | m6A / 体内時計 / Csnk1d |
研究実績の概要 |
m6A修飾は多くのmRNAに存在するが、どのような生理機能や意義を持つのかは十分に解明されていない。所属研究室はm6A修飾が体内時計の周期長を制御し、重要な時計遺伝子Csnk1dのmRNAがm6A修飾されていることを見出した。しかしながら、Csnk1d mRNAのm6A修飾がCsnk1dの発現をどのように制御するのか、また体内時計の周期を制御するのかは十分に検証されていなかった。 そこで、マウス由来の培養細胞においてm6A修飾酵素であるMettl3をKnockdownし、Csnk1dのmRNA発現量、タンパク質発現量の変化を解析した。その結果、mRNA発現にはほとんど変化が起こらず、タンパク質の発現量が増加していることが分かった。これをもとに、mRNAからタンパク質への翻訳効率が増加しているのではないかと考え、ポリゾームプロファイリング法により検証した。その結果、翻訳効率が顕著に増加することが確認された。 次に、Csnk1dのm6A修飾配列周辺を欠損させたマウスの肝臓と脳の組織サンプルにおいてもCsnk1dの発現量を定量した。その結果、野生型マウスと欠損マウスでmRNA発現量にほとんど違いが無く、タンパク質の発現量だけが欠損マウスにおいて上昇していることが明らかとなった。さらに、この欠損マウスを用いた行動測定実験を行った結果、体内時計の周期が野生型と比較して有意に長くなっていることが明らかとなった。これらの成果により、m6A修飾はCsnk1dの翻訳効率を制御を介して体内時計の周期を制御することが示された。このような発現制御はCsnk1dに限らず、他の遺伝子でも起きている可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は重要な時計遺伝子Csnk1dのm6A修飾による発現制御について分子メカニズムの解明に取り組み、翻訳レベルでの発現制御を強く示唆する結果を得ることが出来た。さらに、このCsnk1dの発現制御が体内時計の周期長を制御することを実証した。この研究によりm6A修飾による発現制御機構の一端が明らかとなり、m6A依存的にmRNAへ結合するタンパク質の機能が類推可能になることで、今後これらのタンパク質を探索する手がかりを得ることが出来た。Csnk1d mRNA結合タンパク質の特定は手法の最適化を試みる実験を複数回行っており、内在性Csnk1d mRNAの発現量が十分でないという問題を根本的に解決するため、新たな遺伝子改変培養細胞の作製に着手している。同時に特定mRNAへ選択的に結合するタンパク質を利用するプルダウン手法も検討を進めている。 また、体内時計中枢である視交叉上核において、Mettl3を特異的に欠損させるマウスの作出を試みた。その結果、この系統のマウスはは胎生致死であり、実験に利用することが不可能であると判明した。そこで別の手法として、タモキシフェン投与で誘導可能なCre(UBC-Cre)を利用した。この遺伝子をもつマウスとの交配でMettl3 flox/flox; UBC-Cre/+ を得ており、胎生致死の問題を回避することに成功している。 また、平行して進める計画としていたm6A修飾配列欠損・欠損マウスのゲノム純化もほぼ完了しており、次の実験にすすむ準備が整っている。
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今後の研究の推進方策 |
mRNAの二次構造予測プログラム(m-fold, RNA structure 等複数のプログラム)のデータを踏まえ、m6A修飾依存的なmRNA構造変化がCsnk1d mRNAに結合するタンパク質の親和性に変化をもたらする可能性を新たに見出した。 そこで、構造変化が実際に起きるのかを検証する実験を行う。まず、mRNAの構造が解けている部分を標識する有機化合物(NAI-N3)を利用した実験を行う。この標識による構造障害は逆転写を中断するため、一塩基単位の解像度で分離可能なStructure Gel電気泳動の後にRI標識された逆転写産物を検出することで構造情報を得ることが出来る。これを通常条件とm6A修飾阻害条件で行い、結果を比較する。さらにもう一つの実験として、Csnk1d mRNAのm6A修飾配列の合成オリゴヌクレオチドを作製し、m6A修飾の有無が構造に与える影響をNMRにより解析する。 同時に、m6A依存的に結合するタンパク質の特定を目指す。前年度はRAP-MS法を検討したが、内在性のCsnk1d発現量が低いため、mRNA-タンパク質複合体の回収効率が低いという問題があった。これを克服するためCRISPR/Cas9によりCsnk1dの内在性プロモーターを強力なプロモーターへ置換し、Csnk1d mRNAの全長を過剰発現する培養細胞を作製する。めたべつのアプローチとして、先に述べた合成オリゴヌクレオチドにビオチン化修飾を加えて利用する。これを細胞溶解液を混合した後、ストレプトアビジンとの相互作用により精製し、MSに十分な量のタンパク質を得ることが可能か検討する。 マウスを用いた実験として、胎生致死を回避可能なm6A修飾酵素欠損マウス(Mettl3 flox/flox; UBC-cre )、m6A修飾配列変異・欠損マウスについて行動測定実験とCsnk1d遺伝子発現の定量的解析を行う。
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