バイオインフォマティックスを用いて、栄養状態の変化に応じてヒストンアセチル化を制御する因子の探索を行った結果、NuRD complexといわれるヒストン脱アセチル化酵素複合体の関与が予測された。そこでNuRD complexの構成因子の発現量を確認したところ、構成因子の一つであるMBD3の発現量が栄養飢餓状態において顕著に低下しており、MBD3の発現量の低下を介してNuRD complexの活性低下が誘導されることが示唆された。その後、RNA-seqを用いた検討を行った結果MBD3の標的遺伝子としてDUSP4を新たに同定し、栄養飢餓においてはMMBD3の発現量が低下することで、DUSP4のプロモーター上のH3K27acが上昇し、DUSP4の発現上昇を促進していることが示唆された。 続いて、MBD3-DUSP4経路が栄養飢餓におけるどのような細胞応答に必要であるか検討を行った。その結果、MBD3を発現抑制した際に栄養飢餓における細胞死が低下していた。一方、DUSP4を発現抑制した場合には逆に細胞死亢進効果が確認され、MBD3-DUSP4経路が栄養飢餓における細胞死を促進する働きを持つことが示唆された。さらに、DUSP4の標的が主にMAPKであることから、MBD3-DUSP4のMAPKシグナル経路への影響を検討した。その結果、MBD3の発現抑制によってp38のリン酸化の低下が確認された。実際にこの結果に合致するように、DUSP4の過剰発現はMBD3の発現抑制と同様にp38のリン酸化を低下させており、MBD3-DUSP4経路がp38の活性調節機構として機能していることが明らかになった。また、p38の阻害剤の処置によって栄養飢餓依存的な細胞死が低下したことから、MBD3がDUSP4を発現抑制することでp38を活性化し、栄養飢餓に伴う細胞死を促進していることが推測された。
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