本課題は、物質を構成する電子の秩序、特に反転対称性を破る多極子自由度の秩序(奇パリティ多極子秩序)を持つ系に着目し、その物性応答を理論開拓するものである。これまでも数学的な手法による解析、具体的な物質を意識したモデル計算より、奇パリティ多極子秩序系に特有な応答を様々に明らかにすることができた。また本年度においても、これらの成果について、物性物理学分野においてポピュラーな雑誌、固体物理(アグネ社)の特集号へ寄稿する機会を得ることができた。しかしながら、これらは線形応答の範囲であって、より非線形応答における各多極子秩序の役割についてはいまだ明確な理解がなされていなかった。 したがって、本年度においては特に静的電場あるいは光電場に駆動される電流応答(非線形伝導現象)の解析を主として行った。これらの応答は半導体ヘテロ接合にみられる整流応答と同様の現象であるため、本研究の遂行は、奇パリティ多極子の役割を調べるという基礎物理としての意義は勿論のこと、工学応用など他分野へ波及効果をも与えうるといえる。 奇パリティ多極子秩序系においては特徴的な対称性が存在するが、これが線形応答と同様に非線形伝導現象の分類に際し、非常に強力なツールとなることを示すことができた。更には、磁性を持つ系、いわゆる奇パリティ磁気多極子秩序系に特有の電子構造に着目し、巨大非線形ホール応答や物質の不純物濃度に対して頑強な光電流応答などを理論的に提案した。これらはアメリカ物理学会の論文誌にて出版済みであり(2報)、招待講演を含めたいくつかの口頭講演にて発表も行っている(5件)。加えて実験研究との共同研究も行い論文として出版されたほか、これに刺激された理論研究も進み、論文として投稿段階にある。
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