研究実績の概要 |
当研究室では、活性炭担持型遷移金属を用いた第1級ならびに第2級アルコールの脱水素酸化反応を開発している。これらの反応では、進行に伴い水素ガスが副生し、逆反応が併発し、反応効率低下の一因となる。私は、真空ポンプなどを使って反応容器内を穏やかな減圧状態に保ち水素を排出する「減圧排気条件」や、分子状酸素を水素のスカベンジャーとして使用する「酸素酸化条件」の2つの制御法を駆使して、新しい有機合成反応の開発を目指している。 ベンジルアルキルエーテルは、基質の入手容易性に加えて、反応性の高いベンジル位でのC-H結合活性化反応によって様々な化合物に変換できるため合成中間体としても有用である。私は、Pd/Cと分子状酸素によるベンジル位C-H結合活性化を介したベンジルアルキルエーテル類の酸素酸化的官能基変換法を確立した。この反応は基質選択的に反応が進行し、第1級ベンジルエーテルからはヒドロキシエステル誘導体が、第2級ベンジルエーテルから環状ケタールが生成する。昨年度はこの研究結果をまとめ、国際学術誌に論文投稿し受理された。 また、重水素標識化研究にも並行して取り組んでいる。私は、Pt/CとRu/Cを触媒として2-PrOHと重水の混合溶媒中、加熱攪拌するのみで、四級アンモニウム塩の多重重水素化が進行することを見出した。安価な重水素源である重水を用いており、不均一系触媒であるPt/CとRu/Cは容易に回収できるため、コストならびに環境負荷低減型の反応として有用である。 不均一系遷移金属触媒を用いた重水素標識化法に加えて、有機分子触媒的重水素化法も開発した。すなわち、ヒドロキノンとベンゾキノンを有機共触媒とすることで(重)水中でクネフェナーゲル反応が進行することを見出し、WA 30触媒的アルデヒドα位の重水素化に続くクネフェナーゲル反応により、対応するα,β-不飽和ニトリルが得られることを明らかとした。
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