研究課題/領域番号 |
18J23187
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐々野 駿 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | リチウムイオン電池 / 固体電解質 / 粒界抵抗 / 走査透過型電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
本研究ではリチウムイオン電池の固体電解質材料の候補物質であるLLTOについて,その粒界抵抗の起源を明らかにすることを目的として実験および解析を進めてきた.本年度はLLTOの粒界における原子構造と電子状態の詳細な解析およびイオン伝導度を定量的に測定するための手法の開発を進めてきた. 整合性の異なる2種類のSrTiO3双結晶基板(Σ5,Σ13)を作製し,それら基板上にPLD法を用いてLLTO薄膜を成長させることにより,LLTO双結晶薄膜を作製した.走査透過型電子顕微鏡による原子構造観察の結果,Σ5およびΣ13粒界における構造モデルを決定することに成功した.Σ5粒界においてはTiがバルクと同様のO配位環境を有しており,構造の乱れも見られなかった.これに対し,Σ13粒界においてはバルクと異なるO配位環境を有するTiが存在し,構造の乱れも多く観察された.また,電子エネルギー損失分光による電子状態分析の結果,Σ13粒界のようなバルクと大きく異なる原子構造を有する粒界において多量の酸素空孔が形成されるとともに,Liイオン濃度の減少が誘起されることが予想された. また,個々の粒界におけるイオン伝導度を定量的に計測するための手法の開発を行った.一般の多結晶体を用いてインピーダンス法による計測を行った場合,得られるのは粒界全体の平均化されたイオン伝導度であり,個々の粒界のイオン伝導度に分離することは不可能である.本研究では双結晶基板上に金電極を堆積させ,プローバ装置を用いてインピーダンス測定を行うことにより,単一粒界における伝導度の測定に成功した.今後は基板の影響を取り除くことにより,LLTO双結晶薄膜中の単一粒界における伝導度を計測することが可能になると期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
双結晶法,PLD法,および走査透過型電子顕微鏡を組み合わせることにより,LLTOにおける粒界抵抗発現のメカニズムに関して新たな知見を得ることができた.これらの研究成果は,粒界抵抗を低減した次世代固体電解質を作製するための指針となる重要な結果であると考えられる. また,双結晶中の単一粒界におけるイオン伝導度の定量的な計測に成功しており,今後この手法を発展させることによって薄膜試料にも応用可能となることが期待される.
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今後の研究の推進方策 |
これまでのESMによるイオン伝導度測定では,局所領域におけるイオン伝導をナノスケールレベルの高い空間分解能で検出することができる一方で,イオン伝導度を定量的に決定することが困難であるという問題点があった.また,双結晶試料を用いた場合,検出されるのは基本的に粒界に沿ったイオン伝導度である.そこで今後は,より定量的な解析を行うために,LLTO双結晶薄膜試料を用いて電気化学インピーダンス測定を行い,粒界をまたぐイオン伝導度の定量的な計測を行っていく予定である.
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