研究実績の概要 |
本研究ではリチウムイオン電池の固体電解質材料の候補物質であるLLTOについて,その粒界抵抗の起源を明らかにすることを目的として実験・解析を進めてきた.本年度はLLTOの粒界における電荷状態・イオン伝導度および原子・電子構造の系統的調査を行った. 双結晶法とPLD法を融合して格子整合度の異なるLLTOΣ5およびΣ13対応粒界を設計・作製し,ケルビンプローブ顕微鏡(KPFM)および電気化学歪み顕微鏡(ESM)を併用して粒界の伝導度および表面電位の測定を行った.KPFM測定の結果,Σ5粒界では電気的中性が保たれているのに対し,Σ13粒界はバルクに比べて正に帯電していることが明らかとなった.また,ESMによる測定の結果,Σ5粒界では伝導度がバルクと同程度であるのに対し,Σ13粒界近傍において伝導度の明らかな低下が観察された. さらに,走査透過型電子顕微鏡(STEM)および電子エネルギー損失分光(EELS)を用いて粒界における原子構造・電子状態の解析を行った.Σ5粒界はバルクと同一の原子配列や電子状態を有しており,このような構造的特徴により電気的中性が保たれていることが示唆された.一方,Σ13粒界では多くの酸素空孔が形成されることでΣ13粒界コアが正に帯電していることが示唆される. 以上のKPFM,ESM,STEMおよびEELSによる結果から,Σ5粒界と比較して整合度の低いΣ13粒界において,正電荷を帯びた荷電欠陥である酸素空孔が数多く形成されて粒界コアが正に帯電し,電荷補償のために粒界近傍におけるLi濃度の減少および伝導度の低下が誘起されていることが強く示唆される.また本結果から,LLTOの粒界における酸素空孔の形成およびLi濃度の低下を抑制することにより,粒界における伝導度低下の抑制につながることが期待される.
|