研究実績の概要 |
本年度は、前年度に確立した、生体サンプル中酵素の1分子毎の活性パターンに基づく分離検出法を応用し、疾患の早期診断に繋がる新規バイオマーカーの探索に取り組んだ。具体的には、生体サンプル中のEctonucleotide pyrophosphatase /phosphodiesterase (ENPPs)の活性検出を試みた。これらのうち、最適な組み合わせ(sTG-mdTMP, sTM-dCMP)を用いることで、血液中において複数種類の活性パターンを有するクラスターを検出することができた。また、これらのENPP活性はプレートリーダー等を用いた通常の測定では検出することが出来なかった。そこで、健常者14名、膵臓がん患者31名の血漿サンプルについて酵素活性検出を行い、収集したデータについて統計的に多変量解析を行った結果、ENPP活性を持つ複数のクラスターの1つについて、膵臓がん患者における分子数の有意な増加が見出された。精製酵素を用いた活性プロファイル取得に基づき、このクラスターはENPPのサブタイプの1つであるENPP3であることが推定された。ENPP3は好塩基球の活性化マーカーとして知られており、膵臓がんの進行による炎症作用の結果、血中への逸脱量が増加したと考えられる。実際に膵臓がん患者のステージ毎に診断の有用性を示すROC曲線を作成したところ、ステージの進行毎にその有用性の指標であるAUC値が向上し、この仮説を支持する結果となっている。このような成果から、本測定技術は生体サンプル中の微量な酵素活性を検出し、疾患の早期診断バイオマーカーとしての利用を可能とし得る技術であることが示された。
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