研究課題/領域番号 |
18J23280
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
小林 真隆 横浜国立大学, 理工学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | シングルショット測定 / CFBG / ポンプ・プローブ分光 / 超高速応答 |
研究実績の概要 |
我々は、長寿命成分を有する系において超高速光応答の時間波形をリアルタイムで測定するため、チャープパルスシングルショット法とフォトニック時間伸長法を組み合わせた高繰り返しシングルショット分光技術の開発に取り組んでいる。本年度は、チャープファイバーブラッググレーティング(CFBG)を利用した検出波形の高感度化に成功し、これまでの超高速応答の信号雑音比を大幅に向上させた。また本手法でのシングルショット検出の繰り返し速度は、レーザーの繰り返し周波数に制限されため、従来は1kHzのレーザー光源を用いてきたが、フレームレートを向上させマイクロ秒間隔でのシングルショット計測を可能とするために、繰り返し周波数75kHzのレーザーを用いて光学系の構築を行った。 構築した高繰り返しシングルショット分光系において、テストサンプルとして用意したSiにおけるサブピコ秒の時間領域で生じる超高速光応答が、引き続いて生じるマイクロ秒のキャリア緩和に伴って変化する様子の全ダイナミクスを13.3マイクロ秒のフレーム間隔(~75,000 fps)で観測した。ポンプ光を音響光学素子(AOM)を用いてパルス数およびパルス間隔を制御した上でプローブ光とともにSiに照射することで、ポンプ光によるSiの温度上昇に伴いバンドギャップの減少やフォノンを伴う吸収の増加が起こり、それらの変化がプローブ光の過渡透過率変化波形の違いとして観測され。マイクロ秒で変化するSiの温度差に起因した透過率変化量の差を可視化した。これにより本手法は初期過程から長寿命緩和を含む広い時間スケールで起こるキャリアダイナミクスの評価が可能であることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、チャープファイバーブラッググレーティング(CFBG)を利用した検出波形の高感度化に成功し、これまでの超高速応答の信号雑音比を大幅に向上させた。この結果は光科学関連の著名な学術誌である、Optics Lettersに掲載され、来年度6月に国際会議で発表予定など成果を挙げることができた。また実験としては、これらの成果をさらに発展させ、75 kHzの高繰り返しレーザーにおける高繰り返しシングルショット分光系を立ち上げ、様々な物質系において、そのダイナミクスを測定できることを明らかにできた。特に、光相変化材料における超高速相変化ダイナミクスや、シリコンのレーザーアブレーション等、これまで超高速応答の測定が難しかった系においても、明瞭な信号を得ることに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の方針としては、上記の光相変化材料における超高速相変化ダイナミクスや、シリコンのレーザーアブレーション等におけるダイナミクスのデータを解析し、フェムト秒~ピコ秒の超高速応答とマイクロ秒~ミリ秒の構造変化との相関関係を明らかにすることで、広範なタイムスケールでの物性の理解を深めることを目標としている。またこれらの知見をハロゲン化鉛ペロブスカイト太陽電池における光励起や大気暴露による劣化ダイナミクスの測定に応用することで、光励起によるキャリアの応答を見つつ、劣化に伴う応答の変化を可視化することに取り組んでいく予定である。具体的に鉛ペロブスカイト型太陽電池の高繰り返しシングルショット・ポンププローブ分光において、励起光の波長を光パラメトリック増幅器(OPA)で波長可変にすることで、太陽電池の劣化過程における波長依存性の測定を予定している。波長依存性を明確にすることで、エネルギー分布の観点から劣化過程の起源を具体的な結晶構造の変化やバンドギャップの変化に対応させ明らかにする。
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