研究課題/領域番号 |
18J23295
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
松尾 卓磨 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 現代ロンドンの地誌 / 現代ロンドンの社会経済状況 / ジェントリフィケーション発生地域の分布とその特徴 / ロンドンのジェントリフィケーション研究史 / 剥奪地域とジェントリフィケーション地域の関連性 / メディアのジェントリフィケーションに対する認識 / ロンドンのインナーシティの現状とその歴史的背景 / インナーシティの「包容力」の実証的理論的枠づけ |
研究実績の概要 |
平成30年度は研究対象地域である英国ロンドンのインナーシティ(以下IC)とブリクストン地区(以下Bx地区)を対象とし、ロンドンにおけるBx地区のICとしての位置づけ、および、ロンドンのICやBx地区で発生しているジェントリフィケーション(以下GF)の実態とその影響の把握を目的として、GF研究論文の翻訳発表、英国メディアの記事分析、小規模小売業・飲食業・サービス業店舗(以下小規模店舗)の悉皆調査を実施した。翻訳対象とした論文は、地域コミュニティの紐帯やそうした紐帯に英国の中間階級層の価値観がいかに作用しているのかを明らかにすることを主旨とし、Bx地区と同じくロンドンのICであるペッカム地区の現状を比較分析する論文であった。当該論文はこれまで日本で受容されてこなかった「ソーシャルテクトニクス」概念を扱うものでもあり、ロンドンのGFがICに及ぼす影響や現代ロンドンの中間階級の価値観を把握する上でも非常に有用な知見を提供するものであった。英国メディアの記事分析では、英国の主要メディア8社が2010年から2018年のあいだにインターネット上で発信した記事を対象として、現代ロンドンでGF発生地域として認識されている地域とその分布の特徴を明らかにした。メディア分析を通じてロンドンのGF発生地域の分布の把握を行うことで、従来の統計数値分析からは浮かび上がることのなかったGF発生地域の分布の特徴を明らかにすることができた。現地での小規模店舗の悉皆調査では、ロンドンのICでありかつGF発生地域でもある4地域(Bx地区を含む)を対象として、当該4地域に立地する小規模店舗(約1,000店舗)の位置・店舗名・営業状態・業種を網羅的に記録した。GFが進行するICの小規模店舗は入れ替わりが激しく、複数の地域で同時に収集した情報は今後当該4地域の状況変化を見ていく上でも非常に有用な情報となりうる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では研究の全体的枠組みとして資料調査や現地調査をもとに構成する「実証研究パート」と、主要概念である「包容力」の定式化を軸とし理論的考察を行う「理論研究パート」を設定していた。その全体的枠組みとそれに沿った研究計画に則り、平成30年度の前半期において研究対象地域であるブリクストン地区(以下Bx地区)のインナーシティ(以下IC)期の社会経済状況と現在の「包容力」の具体的中身を部分的に論じる論説を英文叢書の1章として執筆した。また、ロンドンにおいて貧困や社会的に不利な状況が集中している「剥奪地域」の分布とジェントリフィケーション(以下GF)発生地域の分布の関連性について論じる論文を平成30年度中に発表する計画であったが、議論の深化を図るために次年度に先送りした。その深化の具体的内容として、ロンドン全域におけるGF発生地域の分布を明らかにするために英国メディアの記事分析を行った。この分析は当初の計画には含めていなかったが、先述したGF発生地域の分布の把握に際して非常に重要な分析視角であり有用な知見が得られる作業であると判断したため平成30年度に実施した。当初予定していた研究関連論文の日本語翻訳は計画通り実施し、翻訳論文として発表に結び付けた。さらに、英国のEU離脱交渉が暫定的に佳境を迎えたことを受け、EU離脱に伴う経済状況の変化を見越して、当初令和元年度中に実施予定であった小規模小売業・飲食業・サービス業店舗の調査を前倒しし平成30年度に実施した。結果的に主たる研究対象地域であるBx地区のほか3地域において小規模店舗を網羅的に把握することができた。以上を踏まえ、当初の計画とは異なる部分があったもののそれを補足させるかたちで研究の一層の前進を図ることができ、かつ、研究成果のアウトプットも当初の計画に近いかたちで実施することができたため「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策としては、まず予てより進めてきたロンドンの剥奪地域とジェントリフィケーション(以下GF)発生地域の分布の関連性に関する論文を発表することを第一に考え、次いで関連研究の渉猟や資料統計調査、現地調査を踏まえて本研究の論軸となる「包容力」の具体的内容の分析を進めていく。特に「インナーシティ」(以下IC)や「包容力」といった本研究における鍵概念の理論的定式化を優先的に進め、本研究の1つの到達点である「包容力の都市論」の構築に向けてその土台部分を固めるための検討作業を進める。実証的研究を内容とする「実証研究パート」においては、平成30年度に実施したGF発生地域の分布把握や小規模店舗の調査結果を踏まえた上で、当初平成30年度に実施する予定であった福祉分野において醸成されてきた地域の「包容力」の把握を中心的に進め研究計画の修正と補完を行う。具体的には研究対象地域であるブリクストン地区(以下Bx地区)やその他のICを対象として、現地において福祉施策や福祉支援団体の活動を調査し、それらがどのようなかたちで貧困世帯や移民層の生活や居住環境の下支えとなっているのかを把握する。また、平成30年度に実施したBx地区やICにおける小規模小売業・飲食業・サービス業店舗(以下小規模店舗)の調査結果を綿密に検討し、平成31年度後半に予定している現地調査を通じて小規模店舗の状況を通時的に把握する。同時に当該現地調査に際しては小規模店舗間でみられる人的・経済的ネットワークの把握を進めながら、そうしたネットワークによって醸成される経済分野における「包容力」がGFの進行によっていかに変質しているのかということを明らかにする。そして上記の調査や検討の結果は論文発表や学会発表といったかたちで随時アウトプットを行っていく。
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