研究課題/領域番号 |
18J23317
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
湯淺 英知 東京工業大学, 生命理工学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | オニヒトデ / Acanthaster / 比較ゲノム / サンゴ礁生物 |
研究実績の概要 |
前年度に作成したオニヒトデ3種(太平洋:Acanthaster cf. solaris、北インド洋種:Acanthaster planci、紅海種:有効名無し)のドラフトゲノム配列とアノテーション情報を元に、本年度は4つの戦略からオニヒトデ種間の違い解明を試みた。 ①種間のゲノム相同性を算出:オニヒトデ3種のミトコンドリアと核ゲノムの相同性を算出し、種間関係の把握を試みた。その結果、種間のゲノムの相同性はミトコンドリアと核でそれぞれ約92%、約98%であることがわかり、ヒトとチンパンジーの違いと同程度であることがわかった。 ②ゲノム配列での比較:2種間で分化の進んだゲノム領域を抽出することで、その領域内の遺伝子から種間の違いの推定に取り組んだ。結果はゲノム全体で種間分化の程度が大きく、他領域よりも明確に分化の進んだ領域を見つけることはできなかった。Garner et al. 2018では、異所的に種分化した2種間では中立的な変異の蓄積により、分化の進んだ領域が捉えづらくなることが示されている。本来の目的とは異なるが、今回の結果からこれまで仮説レベルであったオニヒトデ種間の異所的種分化の可能性をゲノムから示した。 ③遺伝子での比較:オニヒトデ3種間で共通の遺伝子を対象に、1種のみで有意な正の自然選択が検出される遺伝子を抽出することで種間の違いの推定に取り組んだ。その結果、太平洋種と紅海種において、種固有の適応の痕跡を見つけることができた。 ④進化学的背景の比較:オニヒトデ3種7海域のサンプルを元に祖先集団の有効集団サイズの変遷の推定を行い、種間の進化学的な背景の違いを捉えることを試みた。その結果、広大なサンゴ礁海域にアクセスできたオニヒトデ集団は氷河期といった過去の気候変動の影響が小さかったことから、サンゴ礁生物におけるサンゴ礁の重要性を示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度に実施を計画していた比較ゲノム解析を実施し、いくつかのオニヒトデ属種間の違いを検出できたため、計画通りに進展していると考えられる。 種間の核ゲノムの相同性を算出する際は、ペアワイズに種間の双方向アライメントを行い、双方向ベストで1対1の対応関係が取れた領域を対象にすることで、ゲノムワイドな種間相同性の算出を行うことができた。 遺伝子ベースの種間比較では、遺伝子構造予測によるバイアスの影響を避けるために、太平洋種の遺伝子構造予測結果を北インド洋種と紅海種に移す戦略を取った。しかしながら、遺伝子情報を移す際に翻訳領域の情報のみを用いると、スプライスサイト予測の誤りやシンテニー構造が崩れるといった問題が起こった。そこで、核ゲノムの相同性を算出した際の種間双方向アライメントの情報を用いて遺伝子の翻訳領域を移すことで、これらの問題を乗り越えた。dN/dSベースのモデルを用いることで、種固有に正の自然選択がかかる遺伝子から種ごとの特徴の検出を試みた。Gene Ontology (GO)やKyoto Encyclopedia of Genes and Genomes (KEGG)を用いて遺伝子を機能ごとにまとめることで、正の自然選択が検出された遺伝子で多く見られる機能を特定し、種間の違いの解明につなげた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、これまでのオニヒトデ種間の違いを検出するための比較解析に置いてまずはこれまでの比較ゲノム解析では解析対象としていなかった種固有のゲノム領域を特定することで、その領域上の遺伝子から種間の違いの推定を試みる。種固有領域の抽出には核ゲノムの種間相同性を算出した際のアライメント情報を活用することで検出を行う。その後、これまでの結果を取りまとめて国際誌に投稿することで、成果を世に公表する。さらに、初年度のオニヒトデのゲノム解析によって偶然発見された未知の菌に関しても、成果を取りまとめて国際誌に投稿する形で世に公表を行う予定である。
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