研究課題/領域番号 |
18J23320
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
村田 優穂 三重大学, 医学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | マラリア / スポロゾイト / 肝臓感染 / 転写因子 |
研究実績の概要 |
【double-CRISPR Cas9 システムの開発】 本研究の肝となるダブルノックアウト原虫の作成を高効率に素早く遂行するため、マラリア原虫の遺伝子改変技術の改良を行った。マラリア原虫は非相同組換えによる遺伝子修復が起きにくいという特性を持ち、複数の遺伝子を改変した組換え体の作成が可能であるが、シスエレメントへの点変異の導入を可能にするため、より高効率に組換え体を得る技術が必要である。そこで、gRNAを2種類のプロモーターを用いて2種類発現させ、シスエレメントを含むプロモーター領域の両端を切断することで幅広く切り出し、点変異を導入した合成プロモーターと置換する方法を開発した。 【肝細胞認識に必要な6-cysタンパク質P41の同定】 マラリア原虫スポロゾイトの「通過」に必要なタンパク質SPECT2と6-cysタンパク質の一つであるP41をダブルノックアウトした原虫を作成し、「寄生」を目的とした細胞侵入能力を解析した。その結果、P36やP36pと同様に「寄生」を目的とした細胞侵入が完全に阻害されていることが明らかになった。一方、P41単独ノックアウト原虫を用いて「通過」のための細胞侵入能力を解析したところ、野生型株との間に差は見られなかった。この結果は、P41が他の6-cys蛋白質と同様に、運動ステージから寄生ステージへの転換に必要であることを示す。 【スポロゾイト期における遺伝子発現制御機構の解析】 スポロゾイト期の転写因子であるAP2-SpおよびAP2-Sp2の標的遺伝子解析と、スポロゾイト期の遺伝子発現プロファイル解析を行った。本年は解析手法に改良を加え、より正確な結果を得る試みを行った。さらに唾液腺スポロゾイトにおいて発現量が増加した遺伝子のGene Onthology解析やPathway解析を行うことによって、シグナル伝達系に関与する遺伝子群を同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は研究遂行において必要となる、遺伝子改変システムの改良と「寄生コミットメント」を制御する分子の同定、ノックアウト対象遺伝子選定のための基礎データとなる遺伝子発現プロファイルの3つの成果を得ることに成功した。 遺伝子改変システムの改良は、シスエレメントに対して点変異を導入するという高度な遺伝子改変を可能にし、さらに遺伝子組換え体の作成効率を飛躍的に向上することが出来る画期的な成果である。また、当初の計画には含まれていなかった、新規の肝細胞認識を制御する分子を同定したことは、本研究の目的である「寄生コミットメント」の全容解明に向けて大きな前進である。さらに、転写因子の標的遺伝子解析や発現プロファイル解析の手法も適宜最新の手法へとアップデートしており、昨年度と比較して高確率に「寄生コミットメント」を制御する分子を予測できるようになった。 これらの成果を総合して、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の成果である「スポロゾイト期の遺伝子発現プロファイル」のデータを元に選定した遺伝子群に対して、SPECT2とのダブルノックアウトを試みる。これらの遺伝子は赤血球ステージにも発現することが知られている分子も含まれ、ノックアウトができない可能性が高い。その場合は、改良したdouble-CRISPR/Cas9法を利用してプロモーター領域に変異を導入することで、スポロゾイト特異的にコンディショナルノックダウンする。これらの分子の表現型解析結果を総合して、シグナル伝達系の全容解明を試みる。 また、当初の計画に加えて、既知のP36やP36pと本年度に表現型解析を行ったP41といった6cysタンパク質群が、どのように協働して「寄生」への転換を制御しているのかを解析していく予定である。
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