研究課題/領域番号 |
18J23337
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
大下 奈緒子 熊本大学, 熊本大学大学院 薬学教育部 創薬・生命薬科学専攻, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | Cyclodextrin / Hydrogel / Monoclonal antibody / Stability |
研究実績の概要 |
近年、世界医薬品売上ランキングの上位を抗体が占めており、抗体は現在の医薬品開発のトレンドである。しかし抗体は、輸送や長期保存の際に凝集体を形成するため、抗体の安定性を顕著に改善可能な製剤技術の開発が強く望まれている。これまで我々は、シクロデキストリン(CyD)とポリエチレングリコール(PEG, 20 kD)から成る CyD/PEG超分子ゲルに抗体を封入し、熱や振とうに対する安定性を向上させることに成功した。一方、PEG とポリプロピレングリコール (PPG) の ABA 共重合体である pluronic は、注射剤の添加剤として汎用されており、CyD と超分子ゲルを形成できる。しかし、CyD/pluronic超分子ゲルの抗体安定化効果は不明である。そこで本研究では、3種類の CyD および 5種類の pluronic を用いて超分子ゲルを調製し、封入したヒト免疫グロブリンG (IgG) の熱や振とうに対する安定性を評価した。
粉末X線回折の結果より、pluronic と CyD は超分子ゲルを形成していることが確認された。CyD/pluronic超分子ゲル封入により、熱または振とうストレス後の IgG の残存率は著しく増大し、本ゲルは IgG の安定性を顕著に改善可能であった。さらに、その安定化効果は、CyD/PEG超分子ゲル封入系に比べて優れていた。また、サイズ排除クロマトグラフィーおよび動的光散乱法の結果より、CyD/pluronic超分子ゲル未封入の場合、熱または振とうストレス後の IgG の多くは、不可逆的な不溶性凝集体の状態で存在していたのに対して、本ゲルに封入すると、不溶性凝集体の割合が低下し、可逆的な可溶性凝集体の割合が増加していた。
これらの結果より、CyD/pluronic超分子ゲルは、抗体の安定性を改善可能な製剤素材として有用である可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
採用第2年度目では、ポリエチレングリコール (PEG) とポリプロピレングリコール (PPG) の ABA 共重合体である pluronic と、シクロデキストリン (CyD) を用いてCyD/pluronic超分子ゲルを調製し、封入したヒト免疫グロブリンG (IgG) の熱や振とうに対する安定性を評価した。CyD/pluronic超分子ゲル封入により、熱または振とうストレス後の IgG の残存率は著しく増大し、本ゲルは IgG の安定性を顕著に改善可能であった。
また、CyD/pluronic 超分子ゲル封入による抗体の凝集体形成抑制メカニズムの検討も行った。その結果、pluronic の分子内に含まれる PPG と IgG の疎水性相互作用により、IgGの凝集体の形成を抑制している可能性が示唆された。
採用第2年度目で得られた成果は、昨年度3回の学会で発表し(3回の内1つは日本薬学会第140年会であったため、新型コロナウイルスの影響により中止)、現在本研究の成果の論文を執筆中である。
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今後の研究の推進方策 |
採用第2年度目までの成果により、CyD/pluronic 超分子ゲル封入による IgG の熱または振とうストレス後の安定性を顕著に改善可能であることを明らかにした。しかしながらCyD/pluronic 超分子ゲルに封入した IgG の濃度は 7.0 mg/mL であり、実際の皮下注射用抗体製剤の濃度 (100 mg/mL以上) においても本ゲルは抗体の安定性を改善可能かどうかは不明である。
そこで今後の推進方策の最優先事項として、高濃度の IgG (100 mg/mL) を封入したCyD/pluronic 超分子ゲルを調製し、熱や振とうストレスに対する IgG の安定性改善効果を有するか否かを検討する。
また、CyD/pluronic 超分子ゲルにはこれまでモデル薬物として IgG を封入して検討を進めてきたが、実際に上市されている抗体製剤を本ゲルに封入し、熱や振とうに対する安定性改善効果や、活性評価等も進めていく予定である。
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