研究実績の概要 |
近年、世界医薬品売上ランキングの上位を抗体が占めており、抗体は現在の医薬品開発のトレンドである。しかし抗体は、輸送や長期保存の際に凝集体を形成するため、抗体の安定性を顕著に改善可能な製剤技術の開発が強く望まれている。これまで我々は、シクロデキストリン(CyD)とポリエチレングリコール(PEG, 20kD)から成るCyD/PEG超分子ゲルに抗体を封入し、熱や振とうに対する安定性の向上に成功した。一方、PEGとポリプロピレングリコール(PPG)の共重合体であるpluronicは注射剤の添加剤に使用され、CyDと超分子ゲルを形成できる。 前年度の結果から、CyD/pluronic超分子ゲルは、熱または振とうストレス後の抗体の安定性を顕著に改善可能であり、その安定化効果はCyD/PEG超分子ゲルに比べて優れていた。そこで本年度は、CyD/pluronic超分子ゲルによる抗体安定化メカニズムの解明や封入抗体の適応範囲の拡大を目的とした。
CyD/pluronic超分子ゲル中には均一な水相と不均一な固相が存在する。そこでラマン顕微鏡を用いてCyD/pluronic超分子ゲル中の抗体の分布を評価した結果、抗体はCyD/pluronic超分子ゲル中の水相に存在することが示唆された。また、抗体とpluronic, PEG溶液の相互作用を確認した結果、pluronicはPEGと比較して抗体と強く相互作用することが示唆された。以上の結果より、CyD/pluronic超分子ゲル中のPPG部は抗体と強く相互作用し、抗体をゲル中に保持する結果、優れた抗体安定化効果を示した。
さらにCyD/pluronic超分子ゲルに高濃度の抗体(抗体濃度:100 mg/mL)を封入し、熱および振とう安定性を評価した。その結果、CyD/pluronic超分子ゲルは、熱および振とうの両ストレスに対して、高濃度抗体の安定性を顕著に改善した。
|