研究課題/領域番号 |
18J23340
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
鈴木 和人 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | バイオ触媒 / シトクロムP450 / 酸化反応 / 疑似基質 / 立体選択性制御 / 部位特異的変異導入 / シクロプロパン化反応 |
研究実績の概要 |
巨大菌に由来するP450BM3は、天然基質である脂肪酸に対する極めて高い水酸化活性を有すことから、実用的なバイオ触媒としての応用が期待される。しかし、P450BM3の脂肪酸に対する基質特異性は非常に高く、幅広い基質に対応する汎用的な酸化触媒としての利用が難しいことが応用面への課題となっていた。これに対し、我々の研究室は、脂肪酸の構造によく似た化合物「疑似基質」を開発し、これによりP450BM3を誤作動させることで、ベンゼンやプロパンといった非天然基質の水酸化反応に成功した。本申請課題では、この「疑似基質」の化学構造を利用して不斉酸化反応の立体選択性を制御し、単一の触媒から複数のエナンチオマーを「作り分け」できるような反応系を開発することを目標とする。当該年度に実施した研究では、P450BM3の変異体と「疑似基質」を組み合わせることで、より厳密な選択性制御を目指した。P450BM3のV78F変異体は、エチルベンゼンの水酸化反応において、エナンチオ過剰率が「疑似基質」によって110%変化した。これは、野生型P450BM3のときの89%よりも大きく、変異導入と「疑似基質」を併用することによる反応場制御が有効であることを示唆した。また、野生型P450BM3によるスチレンのエポキシ化反応では、「疑似基質」を利用したときの反応のエナンチオ過剰率の変化は36%にとどまったが、F87A、F87V変異体はそれぞれ114%、73%と大幅に上昇した。さらに、ジアゾ酢酸エステルをカルベン源としたスチレンのシクロプロパン化反応では、「疑似基質」を反応系内に共存させておくことで、熱力学的に不安定なシス体生成物の生成比が2%から22%まで上昇し、またシス体に対するエナンチオ過剰率も6%から63%に改善した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
以下の通り、「疑似基質」で制御する非天然基質のエナンチオ選択的な変換について多くの知見と結果が得られていることから、当該研究は当初の計画以上に進展していると考えている。当該年度の研究により、特にスチレン酸化において、エナンチオ選択性変化の「疑似基質」応答が大きくなるような変異導入箇所を特定できた。今後、これらの変異体を鋳型とした指向的進化等の手法により、「疑似基質」によってさらに選択性を大きく変化させる触媒系の開発が見込まれる。一方で、疑似基質の濃度や、系内に共存させるイオンの種類を変更したことによる選択性の変化は確認されなかった。しかし、溶液のイオン強度を上昇させると、ベンジル位水酸化の選択性がSに偏る傾向を見出しており、「第二の外部添加因子」による選択性制御が可能であることが示唆された。また、「疑似基質」を利用した立体選択性制御の手法は、酸化反応に限らず、カルベン転移反応等の非生物学的な反応にも応用可能であることを確認することもできた。計算機シミュレーションによる実験では、「疑似基質」がP450BM3の構造変化に関与している可能性が示唆されており、これと選択性変化の相関が得られれば、コンピュータ上による「疑似基質」設計の可能性が見えてくると考える。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度で特定した、エナンチオ選択性の「疑似基質」応答が大きな変異体を鋳型とし、さらに選択性を大きく変化させる触媒系の開発に着手する。これに「第二の外部添加因子」を共存させ、複数の因子による共同的な選択性制御に挑戦する。計算機シミュレーションにより、選択性変化の要因を特定し、次代の系の設計指針とする。
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