研究課題/領域番号 |
18J23366
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
森田 健太郎 熊本大学, 熊本大学大学院薬学教育部医療薬学専攻, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 超分子 / DDS / シクロデキストリン / カテナン / ポリカテナン |
研究実績の概要 |
本研究では、CyD ポリカテナンの新規生体素材としての有用性を評価する。一方、タンパク質性薬物および抗体医薬品をはじめとしたバイオ医薬品は高い有効性を有することから幅広く研究が行われている。しかし、細胞膜透過性に乏しい、血中における安定性に乏しいなどの問題を有する。そこで本年度は、安定な結合(アミド結合)を介して環化した CyD ポリカテナンを用いてタンパク質性薬物に対する輸送担体としての評価を行った。
まず、前年度に合成したアミノ化 CyD ポリカテナン (NH2-β-CyD ポリカテナン) を用いてタンパク質との相互作用について検討を行った。タンパク質にはβ-ガラクトシダーゼを選択した。アガロースゲル電気泳動を用いて、NH2-β-CyD ポリカテナンとタンパク質との相互作用について確認を行った。実験結果より、チャージ比および置換度依存的にNH2-β-CyD ポリカテナン/タンパク質との複合体形成能が高くなることが示唆された。次に、細胞障害性について検討を行った。HeLa 細胞 (ヒト子宮頸がん由来細胞) を播種後、NH2-β-CyD ポリカテナン/β-ガラクトシダーゼ複合体を処理した結果、高置換度NH2-β-CyD ポリカテナン投与群ではサンプル未処理コントロール群と同等の細胞生存率が確認されたことから安全性に優れることが示唆された。さらに、細胞内に目的タンパク質を送達可能であることを確認するために、X-gal 染色法を用いて検討を行った。実験結果より、NH2-β-CyD ポリカテナン/β-ガラクトシダーゼ複合体処理群はチャージ比依存的な細胞内 β-ガラクトシダーゼ導入能を有することが示唆された。
本研究結果は、CyD ポリカテナンを細胞内タンパク質輸送担体として用いるための可能性を示した重要な知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近年ではタンパク質性薬物および抗体医薬品をはじめとしたバイオ医薬品が注目を集めている。従って、CyDポリカテナンをバイオ医薬品の輸送担体としての有効性に関する研究は重要な知見であると考えられる。そこで本年度はモデルタンパク質としてβ-ガラクトシダーゼ(β-gal)を選択し、前年度に調製に成功したアミノ化CyDポリカテナン(NH2-β-CyDポリカテナン)を用いてタンパク質性薬物に対する細胞内輸送担体としての評価を行った。
はじめに、アガロースゲル電気泳動法を用いて複合体形成能について検討した結果、チャージ比依存的に複合体形成能が高くなることが示唆された。さらに、HeLa細胞を用いて、NH2-β-CyDポリカテナン/β-gal複合体の細胞障害性について検討した。実験結果より、本複合体処理群は未処理群と比較して同程度の細胞生存率が確認されたことから、安全性に優れることが示唆された。さらに、細胞内に目的タンパク質を送達可能であることを確認するために、X-gal染色法を用いて検討を行った。結果から、本複合体は細胞内にβ-galを輸送可能であり、かつ細胞内において活性を有することが示唆された。一般に、カチオン性ポリマーはタンパク質を細胞内に導入可能であるが、活性を損なう危険性が報告されていることから、CyDポリカテナンはタンパク質細胞内輸送担体として有用であることが期待される。次年度では細胞内導入メカニズムおよび抗体医薬品への応用も行う予定である。
一方、論文投稿および特許出願については計画よりも遅れが出てしまっている。特別研究員として実験結果を世界に公表するためにも次年度ではより積極的に活動を行う。また、特許出願に遅れが出ていることから、学会発表も前年度よりも少なくなってしまった。次年度は、コロナウイルスの影響もあると思うが、積極的に参加を行いたい。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、in vivoにおけるCyDポリカテナンのタンパク質および抗体医薬品デリバリーキャリアとしての有用性およびメカニズムについて明らかにすることを目的とする。具体的には、調製したアミノ化CyDポリカテナン(NH2-β-CyDポリカテナン)を用いて、細胞内導入効率および標的組織移行性について検討する。まずは前準備として、in vitroにおけるNH2-β-CyDポリカテナン/薬物複合体の細胞内動態について共焦点顕微鏡を用いて観察する。本複合体の細胞内移行が確認された暁には、活性評価を行う。これらの知見からin vivo条件を算出し、実験を行う。実験がうまく進行した場合、体内動態メカニズムについて明らかにする。具体的には。IVISを用いて本複合体の体内動態を可視化する。本複合体の体内動態が治療効果として不十分である場合、ターゲティングリガンドの修飾を検討する必要がある。ターゲティングリガンドとしては、がんの場合葉酸を、肝臓の場合ラクトースの修飾を行う。これらは当研究室における実績があるため、合成は容易であることが推察される。また、細胞内移行性が不十分の場合には、細胞膜透過性が報告されている、アルギニンの修飾を検討する必要がある。これらの検討を踏まえ、病態モデルマウスおよび健常マウスに対して本複合体を投与し、有効性および安全性について慎重に検討する。この際、コントロール群と比較して遜色ない安全性および既存薬との薬効比較を行う必要がある。 また、研究結果に関しては、論文化を積極的に行い、世界へと研究成果を発信する。特に、CyDポリカテナンの薬物輸送担体としての有効性は世界に前例がなく、高いインパクトが予想される。さらに、コロナウイルスの影響から学会の数は限られるが、可能な限り国際学会への参加を行う。
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